一発逆転ファイナルレースもスカッと外し、定宿に敗走する。
フロントで今日の宿代――3500円を支払うと、財布には1500円しか残らなかった。明日、原稿料が入金されなかったらホントに路頭に迷うぜよ。
しかしあくまでもにこやかに鍵を受け取る。
すると、すっかり顔なじみになったフロントのおじさんがこう言った。
「これからお仕事ですか?」
はい(ホントはひろめ市場で鰹や『のれそれ』を食べたいけどお金ないし)。
「大変ですね。でも、“田中さん”ってお仕事好きそうだなあ(満面の笑み)」
いや~、ははは・・・。私はいたたまれなくなって、そそくさとエレベーターに逃げ込んだ。
目迫とか郷間とか中地とか。
雑賀とか宗石とか。
ウレシとかサコハタとか。
珍しい名字に生まれたかった。
一発逆転したかった。
払い戻し機に並びたかった。
田中やなくて井上やっちゅうの。
遊んで暮らしたいっちゅうの。
※写真と本文は関係ありません。