GP通信版 ジョッキーズ・トーク Vol.2

 「GP通信版ジョッキーズ・トーク」。2回目のゲストは昨年度リーディング2位の中西達也騎手。今回もまずはプロフィールから。

中西達也騎手

 1969年12月13日福岡県生まれ(35歳) 炭田健二厩舎
 初騎乗日 1987年4月4日 初勝利日 同年4月12日
 通算成績(6月26日現在)11270戦 1386勝(重賞26勝)
 主な勝ち鞍
 中津・中津大賞典(ソルトシェーカー)
 中津・アラブ大賞典2勝(ヒゼンヤマト、ニシケンセイホー)
 南国王冠高知市長賞(デルタフォース)
 高知優駿2勝(ミドリノオトメ、ワイエスジュリアン)
 二十四万石賞4勝(メイショウタイカン2度、ジョイフライト、アサヒミネルバ)

 人間には誰しも二面性がある。そしてまたその二面の間で揺れ動き、葛藤を見せるのが本質だと思う。その葛藤こそが人間の魅力を醸し出す事は多い。そんな事を思い出させるのが中西達也騎手だ。大胆かと思えば繊細。熱血漢であり冷静なクールガイでもある。技術で馬を捌き、精神力で馬を叱咤する…。中津競馬場でデビューしてリーディング上位となるも、新天地を求めて平成9年高知へ移籍。この間メイショウタイカンやデルタフォースといった個性派の強豪で大活躍を見せ、ファンに鮮烈な印象を与える中西騎手に話を聞いた。

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テーマ1 ☆☆ 限りなき向上心 ☆☆

 - 最近、ジムに通われているそうですね

「ええ、週に3日から4日ですね。筋力トレーニングを週2回くらいやって、その合間にエアロなどの有酸素運動。それからストレッチなんかをやってます」

 - なにかきっかけがあったのですか

「若い子(騎手)に負けたくないので…(笑)。減量のためにという部分もあるんですけどね。年齢を重ねても体力を維持してタフでいたいんです。始めて1年半くらいになるんですけど、鍛えればやはり強くなってくるし、バテにくくなりました。あとは騎乗フォームの改造ですかね」

 - 中西騎手の騎乗フォームの美しさにはすでに定評がありますが

「どこに行っても恥ずかしくない、ハイレベルなジョッキーになりたいんですよね。うまい騎手って並足の時でもパッと見て分かるでしょ?オーラが出ているというか、またがっている姿だけで『この人うまいんだろうな』みたいな。
フォームとかもっともっと理想に近付くようイメージしてやっているんだけど、悪い癖とかがなかなか抜けない。それでトレーニングにストレッチなんかも取り入れて柔軟性やバランスの改善を図ってます。アメリカの騎手のビデオなんか見ると、推進力とかすごいしフォームもばっちり決まっている。あれは体幹がしっかりしてないとダメでしょうね。自分のビデオを見ると全然ダメだなあって思う。井の中の蛙じゃなくて、どこで乗っても恥ずかしくないようにしたいから」

 - 昨年騎乗した大井競馬場の高知競馬騎手招待はいかがでした

「大井のレースはスキがないなあと感じました。好位のいい所にポコッとはまったと思っていても、どこかでどこからか馬が来るんですよ(笑)。馬の力も必要だし、フロックで勝てるコースではないですね。地元の内田博幸騎手や船橋の石崎隆之騎手もすごいと思ったし、色々と刺激を受けました」

 - 騎手が上手くなるために必要な条件はなんだと思いますか

「ひたむきにやる事が一番じゃないでしょうかね。ずっと勉強というか、成長していけば誰かが見てくれているという、ポジティヴ思考も大事です」

 - ご自身はポジティヴな方ですか

「僕は両面持っていると思います。同期に名古屋の吉田稔騎手がいるんですが、どんな馬でも勝っちゃう技術もさることながら、『凹む事あるんかな(笑)』と思えるほどのポジティヴさを持ってますね。ああいう華のある騎手になりたいですね」

テーマ2 ☆☆ 勝利へのイメージ ☆☆

 - 中津からの移籍当初はレースの違いに悩まれたそうですね

「はい、当初は本気で『もう帰ろう』と思いました(苦笑)。それまでの自分の観念を捨てなければいけなかったんです。今と比べると当時の高知競馬は外ばかりが伸びる馬場。それまでの乗り方から考えると『外を回るのはもったいない』のですが、内に行くと馬の脚が上がらなくなって苦労しました。今はまた馬場の癖が変わっているので、うまく強い馬をマークしたり、意表を突いた乗り方もしています」

 - 中西騎手にはレースで勝つための方程式ってありますか

「メンタル面で負けないってことですよね。自分に『問題ないよー』って言い聞かせながら乗ってますよ。一時期、結構あがったりしてたけど、今はもう開き直ってますね。色々(調教師からの)指示が出ていても、最終的には自分のレースを貫こうと」

 - それは若手ではやりにくい事ですよね

「そうですね、最近になってできるようになりました。指示通りに乗れば『言い訳』ができるんですけど、自分の判断で思い切った事をしたら『言い訳』できなくなる。それで失敗したら降ろされても当然ですからね。まあそこは度胸を持ってというか…(笑)」

 - それだけの立場になってきたという部分もある

「信頼関係ですよね。うちの先生(炭田健二調教師)なんか何の指示もないですよ。最後は感覚で乗るのが一番ですからね」

 - 中西騎手はレースにテーマを持って臨んでいるように見えますが

「テーマですか、うーん、レース前に大体イメージでこうしてみよう、こう行ってみようと考えたりはしますね。セコく乗ってみようとか(笑)。それでもゲートが開く前のイメージと全然違うレースをする事もありますから」

 - ではやはり「感覚」が優先している

「言葉で説明しにくいのですが、こういう場合はこうしてみようという感覚ですよね。自然に出てくるものです」

テーマ3 ☆☆ 大事に乗る~ポルシェと競走馬 ☆☆ 

 - 趣味が自動車とバイクとか

「子供の頃にスーパーカーブームがありまして、漫画『サーキットの狼』ってありましたよね、あれでランボルギーニ・カウンタックとかフェラーリの形をした消しゴムを集めたりしました(笑)。その頃から乗り物やメカニカルなものが好きですね。バイク、自動車の他に今はマウンテンバイクも欲しくなってます(笑)」

 - で、愛車がポルシェなんですよね

「自動車は最初がシルビアだったかな、それからワゴン系の時期があって、ユーノス・ロードスター、それから今の車ですね」

 - 古い型でレストアして乗っていると聞きましたが

「1981年型のポルシェ911です。バイクとかメカに詳しい友人宅のガレージでバイクを見せてもらってる時に、そのガレージの片隅でホコリをかぶっているのを見つけて、最初は『あれいいねえ~』というくらいの感じだったんですけど、そのうち譲ってもらえる事になりました」

 - 手入れが大変じゃないですか

「主治医はその友人なんですけど、ファンベルトのチェックとかオイル交換は自分でやりますよ。空冷エンジンなんですけど、油冷みたいなもんなんで(笑)オイルは一回で10リットルくらいは必要ですね」

 - 手間をかけてでも乗りたい魅力がある

「一番好きなのはそのスタイルですね。独特のヒップラインが絶妙で。あとは加速するフィーリング、そのトルク感。エンジン音もたまらないですね、バイクに近い感じかな」

 - バイクにも手間を掛けてるんですよね

「今は単気筒のSR400と古いスクーターに乗ってます。バイクはアイアン・ホースというくらいで本当に馬って感じですよ。愛馬って感じ。自動車・バイクも味があるのが好きですね。生き物を飼っているのと同じで、手を掛けてやらないと調子がよくないんです」

 - ちょっと競馬の話になってきましたね

「馬も車も、大事にすること、ですよね。同じ状態で、いい状態でいつも走れるわけではないから、ワンチャンスを逃さずに勝たせてあげたいと思います」

テーマ4 ☆☆ デルタフォースの背中で ☆☆

 - 稀代の個性派、デルタフォースの追い込みはファンを魅了しました

「見た目は悪いんですよ、立派な馬には見えない(苦笑)。背中も特にいいわけじゃないんだけど、味があるから乗ってて面白いですよね。あれほど個性的な馬はいなかった」

 - 豪快な追い込みは癖になりませんでしたか

「あの馬は3~4コーナーで第1エンジン、そして直線に向いてから第2エンジンに点火するんです。見ている側からはハラハラドキドキだったでしょうが、4コーナーでもう一度行く時に受ける風の流れはたまらない感覚でした」

 - 当時はライバル馬も多かったですね

「サウンドマスターとかラッキーイチロウですね。あとデルタフォースと対照的だったのがスマノガッサン。脚質が正に自由自在だった。行かせれば行くし、溜めてもいい脚が使ってくれた。僕は4~5回乗せてもらって負けた事がないんじゃないかな(記録では5回騎乗して5勝だった)」

 - それでも追い込み一筋だったデルタフォースは中西騎手を魅了しました
   ちなみにポツンと後方から差を詰めながら、中西騎手は何を思っていたのですか

「『間に合ってくれ』『突き抜けてくれ』と心で叫んでいました。あの馬は差し切ってもいつも僅差だったんです」

テーマ5 ☆☆ これからの中西達也騎手 ☆☆

 - これからの中西騎手は

「うーん、とにかく落ちぶれたくないですね。とにかく若い騎手に抜かれないっていう気持ちで頑張ります」

 - 今日はありがとうございました、最後に理想の高知競馬とは

「お祭りみたいになると面白いですよね。もっともっと皆さんに見にきてもらいたいです。馬も騎手も頑張っていますので」

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 インタビュー追記

 2002年3月18日、今村賢治騎手が引退した時にそれは起きた。黒船賞のひとつ後のレースが今村賢治騎手のラストランだった。過去に重賞勝ちがある実績馬ノルディクダンサーが今村騎手を鞍上に先行、各馬の追撃を振り切ってゴール板を先頭で駆け抜けた時、このレースに騎乗のなかった中西達也騎手は検量室でじっと今村騎手の騎乗を見つめていた。そして、引き上げてきた今村騎手を皆が拍手で迎える中、中西騎手は真っ先に飛び出していって泣きじゃくりながら抱きついたという。
 リアリストであるがゆえロマンティスト。人間が何かしら抱える絶望ゆえの希望といったものが中西騎手の心から溢れてくるようなエピソードだ。ちなみに徳留康豊騎手(現・金沢所属)の送別会の時に、高知市内のオールディーズの生演奏が聞ける店で、率先して踊る中西騎手の姿も楽しかった。

キャンペーンなど
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