今回から、騎手へのインタビューで構成する「GP通信版ジョッキーズ・トーク」シリーズをお送りする。初回のゲストは昨年度のリーディングジョッキーに輝いた西川敏弘騎手だ。まずは簡単なプロフィールから。
西川敏弘騎手
1970年1月27日高知県生まれ(35歳) 大関吉明厩舎
初騎乗日 1987年4月4日 初勝利日 同年5月16日
通算成績(5月25日現在)10777戦 1613勝 重賞44勝
主な勝ち鞍
福山・全日本アラブグランプリ(マルチジャガー)
高知県知事賞5勝(ブルラミー、ウォーターダグ3度、カコイサンデー)
建依別賞 4勝(ニッポースワロー3度、ブリッジテイオー)
南国桜花賞 6勝(ウインウイング、ラッキーイチロウ、サウンドマスター、チーチーキング、エスケープハッチ2度)ほか
照れ屋で負けず嫌いながら、さっぱりとした性格は正に「土佐の男」といったタイプの西川騎手。その人物がまた人を惹きつける。騎手としての実力は元々誰もが認めるところだが、初となるリーディングジョッキーのタイトルを獲得したことで、名実共に高知競馬を代表する騎手となった。インタビューでも照れ屋の部分は相変わらずだが、騎乗技術の向上に真摯に向き合う姿が浮かび上がってくる。以下、6つのテーマでのインタビューの模様を掲載する。
-------------------------
テーマ1 ☆☆ 昨年度は初のリーディングジョッキーに ☆☆
- 昨年度は119勝(他に遠征で2勝)で初のリーディングジョッキー。重賞7勝のうち1つがマルチジャガーで制した全日本アラブグランプリ(初の交流重賞勝ち)。更に年度最後には黒船賞ではJRA・ノボトゥルーを2着に持ってくるというおまけも付きました。本当に大活躍の1年でしたね。
「はい、昨年度は本当にツイていました。馬運、もちろんそれもそうですが、タイミングみたいなものもありますよね。例えば全日本アラブグランプリなんかは福山勢にずば抜けた存在がいなかった、混戦模様だったからこそチャンスが広がったと思います。事前に瀬戸内賞で一度対戦したメンバーが相手だったことで作戦が立てやすかったですしね。あと黒船賞ですが、たまたま今年は自分の騎乗馬がいなかった。関係者も(騎乗を)推してくれたと聞いています。ちょうど子供の進学が決まって入学金などが必要だったので、2着の進上金が入ってラッキーでした(笑)。まあタイミングがばっちりでしたね」
- しかしそうやって結果を出し続けるためにはツキだけではなく、実力が必要です
「どうでしょう(照れ笑い)。ただいつも、負けてもいいや、という気持ちでいるようにしてます。勝ちたい勝ちたいと思うとダメで、重賞なんかでも普段と同じレースだと思うと結果が出ますね。この間の黒潮皐月賞(トップアオバで優勝)も、ゲートでごそごそしてたから出遅れるかなって感じでしたけど、まあいいや、力はあるし慌てずに行こうかってじっくり構えられたのが良かったと思います」
- ノボトゥルーはデムーロ騎手のアクシデントで急遽騎乗することになったのですが、G1馬の印象はいかがでしたか
「あの年齢であれくらい末が伸びるというのは驚きましたね。エンジンが二段あるみたいでした。当日の馬場も考えてなるべく前に付けるレースをしたのですが、それでも最後までしっかり伸びてくれました」
- ノボトゥルーは次走のかきつばた記念でも武豊騎手を鞍上に同じようなレースを見せました。西川騎手の乗り方を参考にしたのかも(笑)
「僕もそのレースをモニターで見ていましたが、ささる癖があるようなので内を周って、それから外に出すなど工夫して乗っていますね。地方競馬で乗る時も武豊騎手はそのコースの特性に合わせたレースをします。中央の乗り役が地方交流レースで結果を出していったのは、武豊騎手の影響が大きいんじゃないですかね」
テーマ2 ☆☆ 重賞競走で魅せる ☆☆
- さて西川騎手はデビュー年度(昭和62年度)の高知県知事賞をブルラミーで制するなど、新人時代から思い切りのいい騎乗を見せてますね
「ブルラミーはとにかく掛かる馬で、調教時に色々な矯正具を着けていても効果がなかったんです。それで知事賞のトライアルだったかな、思い切って逃げたら馬力で押し切ってしまった。あっ、これだということで知事賞でもゴンゴン行って2400mを逃げ切りました。新人だったんで、何かよく分からないうちに勝ってしまった感じでしたね。ゴール板を過ぎて大分経ってから、そう1コーナーを回った所で厩舎の窓から見ている人に向かってガッツポーズしましたよ(笑)」
- それで当時は「逃げの西川」というニックネームが付きました
「そうですね。自分としてはそういうイメージが付くとマークされるし、そう呼ばれるのはちょっと、と思っていました。目標としては何でも出来る騎手になりたい、徳留騎手のように馬を動かせるようになりたいと思ってやっていましたしね」
- その後も色々な強豪・注目馬に騎乗しましたね
「そうですね、アラブだとキータイガーやラッキーイチロウも強かったですね。
サラブレッドみたいなレースをしてくれました。また自分の騎乗馬は、力はあるけれど何か注文が付くというタイプの馬も多かったですね。ニッポースワロー(建依別賞三連覇)は逃げてナンボという馬でした。能力があって競馬を教えてくれた馬でもありますが…。それから現役馬のウォーターダグは揉まれるとダメ、マルチジャガーもちょっと難しいところがあります」
- マルチジャガーの復帰も待ち遠しいですが、一方でエスケープハッチが快進撃中です。6月には福山の交流重賞・タマツバキ記念へ再び挑みますね。
「エスケープハッチは最初に調教した時から『これは走る馬だ』という感覚がありました。だから田中譲二先生にも相談して、4歳くらいまでにじっくり仕上げていけば丁度いいんじゃないかということになりました。早く仕上げるとどうしても故障する確率が高くなるんですよ。エスケープハッチが古馬になってから成績が良くなったのはそういう理由もあると思います」
- 新年度はそのエスケープハッチとトップアオバで勝って、重賞の勝ち鞍が通算44勝になりました
「そうですか。賞金は下がってもやはり騎手にとっては見せ場ですからね、重賞の時はなんとか腕を見せたいですね(笑)。先日の黒潮皐月賞でも2着は中西達也騎手(8番人気のエレガントシエナ)だったでしょう、みんな同じ気持ちだと思いますよ」
- トウショウライデンやウォーターダグではダートグレード競走への遠征も経験しました
「総じて高知競馬所属の馬は輸送が課題ですね。現地へ着いた頃にはトモがカスカスになっているんですよ。慣れていないから、輸送だけでもう疲れてしまっているんです。馬も人ももっと輸送に慣れないといけないでしょうね」
テーマ3 ☆☆ 独特の騎乗フォーム、その成立過程とは? ☆☆
- 以前にもお話を伺ったのですが、ご自分の騎乗フォームはかなり独特だと?
「家族がレースを見にきて、お父さんだけ遠目にも分かるって言います(笑)。
自分が一所懸命に馬を動かそうとすると、自然にああいうフォームになるんですよね。ただデビューした頃から色々な騎手のいいところを真似してきました。
当時だと打越初男騎手(現調教師・高知競馬最多勝記録を保持する大騎手)がまだ現役で、あと細川忠義騎手(現調教師)の長手綱も参考にしましたし、それから徳留康豊騎手の脚の使い方も真似してみましたね。くるぶしで馬を挟んで追うというやり方です。それから北野真弘騎手がデビューして、鐙(あぶみ)を浅く履く乗り方を勧められました。モンキーでバランス良くという騎乗スタイルで、『こっちが楽やぞ~』って言ってましたけど、最初はなかなか難しい(笑)。そうやって他の騎手から学んだ騎乗スタイルをミックスしたものに、自分が馬を追うスタイルを合わせて出来たのが今のフォームですね。最近も若手でいい乗り方をしている騎手がいれば取り入れてますよ」
- いいものは何でも参考にする
「自分の勝てない馬で勝つ人がいると、そのやり方を真似てみます。そうすると段々そのやり方が出来るようになります。位置取りとかということではなくて、大体の感じを掴むんですよ。どうやって勝たせているかという…」
- 弟弟子の堅田雅仁騎手も西川騎手に似てきましたね
「追えるようになってきたし、確かに自分の追い方にも似てきましたね。とにかく真面目で努力してますよ。課題としては、テン乗りでもいきなり結果を出して欲しいということ。プロだったら最初から結果を求められるわけですからね。『今日はこの馬(状態が)いいからな』とか言うと、ちょっと力が入ってしまうような時があります。2度目だとしっかり乗れるんですけどね」
- ところで西川騎手のライバルは
「以前はやっぱり北野真弘騎手でしたね。勝ち星の数で負けていても、ここぞという時には勝たせないぞ!という気持ちがありました。だから高知県知事賞は最後まで勝たせなかったですよ(笑)。最近はやはり同世代の中西達也騎手ですかね。他にも、負けたくないという存在はたくさんいます。いいライバルというのは大事ですね。若手では赤岡修次騎手と倉兼育康騎手の二人が、それぞれ意識してないように見せながらライバル同士でしょうね。普段は仲がいいですし年も近いから、いい関係だと思います」
テーマ4 ☆☆ 勝利の方程式 ☆☆
- 高知競馬場のコース攻略法です。まずはトリッキーな1~2コーナーの捌き方がポイントになるかと思います。ここで無理やり外を回るとコースロスがあるけれど、内過ぎると馬場の深い所を通らされてしまう…
「僕は内が好きです。想定より外を回ってしまった時に、その馬の力量から判断してここで(使える脚が)終わってしまうこともあるんです。なるべく馬に楽をさせたいから1コーナーでは出来るだけ内を行きたいですね。ただ難しいのは砂を被るのをとても嫌う馬がいるんです。高知競馬の馬場の砂は海砂で目が粗いから当たると痛いんです。そういう馬の場合は中途半端に中枠になるよりは最内枠からのスタートの方が良かったりしますね」
- 2コーナーを回って向こう正面、以前にインタビューさせて頂いた時に仕掛けのポイントをなるべく遅くしたいと言ってましたね
「最近はあまり早仕掛けをしてくる騎手がいないので、ちょっと状況が違います。各馬の手応えを見極めながら仕掛け所を探しますね」
- 3~4コーナーは勝負所、マクリ気味に動く騎手もいます
「自分はここで7分位の追い方にしたいんですよ。コーナーでどこまで無理せずに行って直線の余力を残すか、ということですね」
- 右回りのコースだからコーナーでは右手前で走ります。高知競馬場ではやはり右手前が強い馬(右利き)の方が有利ですか。
「いや、逆に左利きの馬が好きですね。結構馬によっては左右の手前での走りが全然変わってしまうのですが、苦手の右手前でコーナーを楽させて、直線に向いたら得意の左手前で勝負を決める、というのがいいですね」
- 他の馬の手応えは勝負の大事なポイントですね
「そうですね。レース中だけではなくて、返し馬の時によく観察してますよ。
馬の張りというか雰囲気で体調が分かります。あれっ、ライバルと思っていた馬が意外と元気ないな、とか、逆にこの馬がずいぶん良く見えるけどこんな馬いたっけ、と思わせる場合もあります。返し馬の前後にも、ちょっと蹴躓くとか、普段と違ってゲートを嫌がるなんていう観察ポイントがありますね。もうひとつ元気がない、レースを走りたくないという状況だと思います。まあ馬も動物ですからね、そんな日もあるんでしょう(笑)」
テーマ5 ☆☆ 西川騎手が考える、理想の競馬場 ☆☆
- 高知競馬がどんな競馬場であって欲しいかという質問です
「なんでもかんでも中央競馬のようでなくてはいけない、とは思わないんです。
うちはこんな競馬場なんです、というオリジナルの楽しさがある競馬場。例えばファンと騎手との触れ合いがあったらいいなとも思いますよ」
- 現実にはパドックや返し馬でファンと話をしてはいけない決まりがあります。アイコンタクトなど紛らわしい行為も禁じられていますね。
「公正競馬は大事ですから。でも本当は『西川、さっきのレースはいい騎乗だったねえ』と声が掛かったら、手を挙げて笑顔を返すくらいはしたいですよね。そういう和気あいあいとしたムードが欲しいんですよ」
- アメリカなんかではありそうな雰囲気ですね
「理想としては、楽しいのが競馬だと思ってます。田舎なんだから格好つけないで気楽に過ごせる場所になったらいいんじゃないでしょうか」
テーマ6 ☆☆ これからの西川敏弘騎手 ☆☆
- 最後に今後の目標などを
「一生乗り役でいたいです。生涯一騎手というか…。今考えているのは、これから年齢を重ねても若い乗り役に負けないということですかね。(目標として)
これをしたいいあれをしたいということじゃなくて、それだけ。2000勝?
ああ、それはしたいですね。まあ50歳までには(笑)」
- せめて「40歳まで」の間違いでしょう(笑)。今日は長い時間ありがとうございました。
「ああ、どうも。競馬がどんどん盛り上がるように、ファンの方にも応援をよろしくお願いします」