G・W ディ-----ライツ!

 高知競馬の歴史と共に、高知県で競走馬生産が盛んであったのは確かな史実だ。近年までサラブレッドの生産も細々と残っていたのだが、県外への“輸出”まで行って隆盛だったのはアングロアラブ競走の華やかな時代。

 その後、高知県産馬は減少を続け、更に競走体系が古馬優遇であったこともあり、高知は他地区から既出走競走馬を“輸入”する競馬へと変貌していった。この是非は今回のテーマではないのでおいておくとして、そんな高知競馬からも“逆輸出”により他地区で活躍を見せた馬がいる。代表格に挙げるのはゴルデンビューチとリワードタイタンの2頭だ。

 ゴルデンビューチは1981年生。北海道でデビューしているから高知は2番目の所属場。故・土居高知調教師の元で活躍したことで何かきっかけを掴んだのかもしれない。金沢、東海と移った後、旧7歳時に中央競馬へ移籍。なんとここで重賞の小倉記念を勝ってしまう(2着プレジデントシチー)。高知競馬所属を経た馬が後に中央競馬の重賞競走を勝ったのはこの1例のみ。ゴルデンビューチは更に朝日チャレンジカップ2着やOP特別・谷川岳S1着などがあって、高知のファンからは「出世したのぉ」という声が上がったのではないか。
 父はグレイソブリンの快速系統、ソブリンパスの持ち込み馬ゴールデンパス。
母系は名前から推測できる通りビューチフルドリーマーの系統。父と母系の名称を足して出来た馬名なのだが、英語で表記するとGolden Beauty で、やや牡馬の名前としては?。しかしカタカナでゴルデンビューチとすれば勇壮な牡馬に思えるから不思議。ちなみに引退後は種牡馬となり産駒も出した。高知でも産駒のゴールデンキングが土居高知厩舎所属として出走しており、A3で2着、重賞のトレノ賞(9着)にも出走するという競走成績を残している。父仔が共に高知の土居厩舎で走ったという稀有な例でもある。

 もう一頭のリワードタイタンは1992年に北海道・社台ファームで生まれている。なかなか競走馬として仕上がらなかったようで、中央競馬でのデビューを断念。別の地方競馬でのデビューを考えたが、ここでも仕上がりきらずに旧4歳、当時の規定ギリギリの12月に高知・雑賀正光厩舎でようやく緒戦を迎えている。この時の馬体重は482キロ。栗毛でトモ(後肢)がすぅーっと長い馬体は文句なく垢抜けていた。こういった体形はアメリカ馬に多いと思っていたら、やはり父がジャッジアンジェルーチ(USA)、母がタップユアトゥズ(USA)という内国産のアメリカ血統だった。なんとか競走馬としてのデビューにこぎつけたリワードタイタン。素質は十二分に見せるがなかなか勝てない。年明けにかけて3戦連続2着。まあボールドルーラー系らしい詰めの甘さというべきだが、ようやく4戦目にC5クラスを勝利。ここで事前の約束だったらしく新潟競馬への移籍と相成った。
 それからしばらくこの垢抜けた栗毛馬の事を忘れていたら、なんのなんの新潟では破竹の快進撃。相変わらず2着は多いものの一気にオープンまで駆け上がり、初勝利から1年3ヵ月後には新潟代表として群馬記念(8着)に出走していた。それから秋には東京盃に登場。しかも6着に食い込んでいる。ここから休養を挟んで春シーズンには中央競馬に移籍。函館のオープン特別、大沼Sを優勝。ここで負かした相手はなんとあのオースミジェット。その後はエルムSでニホンピロジュピタの3着となるなど、重賞勝ちこそないものの中央での収得賞金が6千8百万円以上の十分な活躍を見せた。

 ゴルデンビューチの特異な例は、恐らく晩成型であったことと、芝の中距離に適性があったのになかなかそういった条件で走れなかった、という2つの理由で説明できそうだが、それでも今でいう6歳になってから中央入りを果たしている辺りまだまだいい時代だったとも考えられよう。

 リワードタイタンの場合は、今でいうと地方で勝ち星を挙げれば中央に戻れるという「1勝ルール」が整備される前の話と考えればいいか。ただしいわゆる未勝利馬と違って未出走馬というのは脚元だとか気性面で大きな問題を抱えている場合がほとんどで、そういった馬をデビューさせる技術や労力は大変なものだ。そこには地方競馬のプラスの面や、競馬業界全体のセーフティーネットとして働くというメリットが顔を出す。非常に高い資質を秘めながら、ちょっとした原因で社会のタイムスケジュールに乗れない存在がいるのは人間でも馬でも同じ。俗に言う「ムラ社会」ならそのまま捨てられていくであろう存在が、近代的な概念がしっかり整備された社会では社会資本として大事にされる。

 「1勝ルール」のため、近年は高知競馬にも中央未勝利、あるいは未出走の資質馬が続々入厩してくる。これらはやがて中央へ戻る事を前提としているため、ある意味「腰掛け」的なイメージがあるかもしれない。それでもこういった競走馬流通体系が競馬全体に対して果たす役割は大きく、かつ高知競馬の関係者やファンにとっても後の活躍馬の初勝利の瞬間に立ち会えるなど、新たな興趣を呼んでいく可能性がある。

 
 さてそんな新しい時代の成功例になるのか、今回の主役はケイエスディライツである。まずは同馬のプロフィールから。

ケイエスディライツ (K S Deelites)

牡 栗毛 4歳 米国産 雑賀正光厩舎 馬主・高田喜嘉氏
  父 アフタヌーンディーライツ(Afternoon Deelites)
  母 ヒマワリ(Himawari)
母の父 マニラ(Manila)

戦績(高知2戦2勝)
年月日   クラス距離 天候 馬場
着順  タイム 差 体重 騎手  斤量
2005/03/05 F7 1400 晴 稍重
1/ 8 1:34:0 0.9 480 中越豊 55.0 
2005/03/27 F4 1400 曇 稍重
1/ 11 1:35:3 0.3 472 中越豊 55.0

 ケイエスディライツはオーナー自らが米国のセリで見出したという期待馬。
残念ながら中央競馬で登録されながらデビューにこぎつけられず、4歳となった今年3月に高知競馬で初陣を飾った。能力検査で好タイム(1300mを1分25秒0)をマークしたが、この時計は他地区オープンクラスからの移籍馬でもそうそう出せるものではない。能力検査の場合、基本的には「馬なり」で走るものだから、この馬のスピード性能を示す数字と言えよう。
 
 そして迎えたデビュー戦。この時計もあってか、いきなり人気に推されたケイエスディライツだが、なんとゲートを出た瞬間によれた感じの出遅れ…。万事休すかといったところだが、徐々に進出すると結局早め先頭から突き放す圧勝。ここはちょっと能力の違いを見せた緒戦勝ちだった。1400mの勝ち時計1分34秒0もクラスを考えれば上々のもの。中越豊光騎手は「走るね。出来れば控える競馬を教えたかったけど、あんな展開になってしまったから」とのコメントを残している。実際に体つきもまだ仕上がり途上と言う感じであの走りだから、鞍上が色々な手応えを感じ取ったのは事実だろう。
 2戦目には手強い相手が待っていた。中央3勝の実績馬、サヴァイヴァコールとの一騎打ちムード。緒戦よりも時計が遅くなった(1分35秒3)のは互いに牽制しあったゆえか。しかしここも最後は1馬身半の差を付けて完勝。見事に2連勝を飾ったのである。リワードタイタンを仕上げた経験のある雑賀正光調教師もこのレースぶりは絶賛。「モノが違いますねえ。芝のレースでも行ける(やれる)んじゃないかとに思います」とコメント。この時点ではいつ中央に戻すかをオーナーサイドと協議中との話だった。

 父アフタヌーンディーライツは2歳時に後のケンタッキーダービー馬サンダーガルチを破ったハリウッドフューチュリティを勝ち、3歳になっては後のプリークネスS馬ティンバーカントリーを負かしてサンフェリーペSを勝つが、結局本番のケンタッキーダービーでは追い込み不発で8着に敗れている。父祖を辿ればテディ~ダマスカス系のアメリカントラディショナル血統で、スピードの持続力では右に出るもののない父系と言えよう。この父系の近年の活躍馬ではスキップアウェイ(BCクラシック)が有名だが、アメリカのダート競馬に必要不可欠なスピードの持続力という要素は特に母系に入ることで世界中の競走馬に供給されてきた。例えばニジンスキーの母父ブルページ、ナリタブライアンの祖母の父はダマスカス、名種牡馬ダンチヒの母父もこの系統だ。スピード競馬のトレンドを支える縁の下の力持ち的なイメージが合うか。ちなみにアフタヌーンディーライツのいとこの仔に、ドバイワールドカップで2着となったソウルオブザマター(父プライヴェートタームズ…ダマスカス系)がいる。
ダマスカス系と相性のいい母系なのかもしれない。
 さてアフタヌーンディーライツはダマスカス系でもちょっと違う特徴を持っていて、それは総じて産駒がみな胴長タイプに出ることだ。このことはダマスカス系のお家芸、一気に先行して粘りこむというイメージとはちょっと違ったレースをする可能性を示している。一般的に胴長で一完歩のピッチが長ければ、より長距離への適性があると考えられる。少なくともスタートダッシュが抜群の馬というのは大抵、前肢を強力に掻き込んで後肢を添える、といった走法だから、胴長タイプはそれほどスタートが速くない場合が多い。ケイエスディライツも正にこういうタイプで、緒戦の出遅れもちょっと体を持て余す感じだった。中越騎手の言うとおり、ゲートはそっと出て中団を追走、加速が付いてからその持続力を活かし各馬を交わしていくというレースもありか。

 母ヒマワリの父はマニラ。リファール産駒対決となったBCターフでマニラがダンシングブレーヴを下したのは語り草。この両馬どちらにも言えるのだが、パワーを伴った切れ味をもたらすのが特徴の種牡馬だ。母の父がリファール系というのは天皇賞・秋のバブルガムフェロー(リファール)をはじめ、今をときめくディープインパクト(アルザオ)、朝日杯のエイシンチャンプ(マニラ)らが出ていて心強い。祖母バルティックミスはケイエスアーリー(現役馬、中央1勝、高知5戦5勝の成績で現在は兵庫所属)を産んでおり、ケイエスのオーナーにはゆかりのある一族。

 ここで名前の事にも触れておこうか。アフタヌーンディーライツのディーライツは実はDelights(喜び、楽しみ)のつづりを変えただけの(Deelites)もの。だからケイエスディライツ(K S Deelites)というのはディーライツと伸ばさなくても結局は同じ意味になる。そういえばオーナーの名前にも“喜”の文字があるからとてもしゃれている。

 さあ、ケイエスディライツは5月3日、高知競馬の第6レースに登場(予定)。
その後中央競馬へ移籍する予定があるそうだ。高知3戦目でどんな走りを見せ、そして未来にはどんな栄光が待っているのか。決して楽な道ではなかろうがこういった若い馬の挑戦なら可能性も少なくはない。そんな気持ちで見守ると、高知競馬のGW開催、5月3日の第6レースには違った感慨も生まれてくるだろう。またひとつ競馬を見る楽しみを増やして、GW開催がやってくる。

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