3月22日に行われた黒船賞G3他、各レースを回顧する。
当日は生憎の天気だが、夕刻に向けて徐々に回復。入場者1万3千人、一日の売得金額8億6千9百万円共に高知競馬レコード。この数字に関してはただただ全ての方に感謝する次第である。
取材陣約80社、入場制限をせざるを得ない中の特異なムードは来場して頂いた皆さんも、報道で見聞した方もご存知であろう。筆者の普段の“出勤”時間は午前9時半位だが、その日はさすがにゆっくりとしてもいられず午前8時半には着いた。それでもすでにお客様用の駐車場はかなり埋まっており、3千人の方が入場ゲートの前で開場を待っていたとのこと。午前8時52分に開門、午前10時にはすでに7000人の入場者を越えていた。最終的には午後になって1万3千人の基準を超えることが確実となって、入場制限という苦渋の選択を余儀なくされた。これは消防法上、敷地面積によって定められた入場者を越えて入場させてはならないという決まりに基づくそうだ。当日、筆者の携帯電話は完全に留守録モード。着信は30件以上に及んでいたが、さんざん鳴らしても返信がなかった件、どうぞ非常事態とご容赦頂きたい…。
さて“高知競馬春祭り”、3月22日の第8競走は第18回全日本新人王争覇戦競走。ぐずついた天候のため、コースに水が浮くような不良の馬場。名物の激しい先行争いが繰り広げられたが、結果的に前々で頑張った馬(と騎手)が上位入線を果たす事となった。
着馬番 馬名 騎手名 所属 着差
1 5 ダイナナワンダー 柴原央(JRA)1:31:5
2 1 ショウリノオタケビ 林 幻(船 橋)1/2
3 10 ポライトワールド 五十嵐(JRA)1
4 7 セイエイカーネギー 池田敏(福 山)1
5 8 フジノスマイル 筒井勇(笠 松)ハナ
6 4 ミスターアオモリ 和田譲(大 井)1/2
7 6 カクテルウィンディ 吉村智(兵 庫)3/4
8 9 ビッグドーベル 岩橋勇(北海道)3/4
9 3 フェオ 前住和(川 崎)クビ
10 12 モエロイイオンナ 周藤直(福 山)クビ
11 11 オテンバミヨチャン 齋藤雄(岩 手)ハナ
12 2 ニュースフラッシュ 大畑雅(名古屋)大差
JRA栗東の柴原央明騎手がダイナナワンダーで逃げ切って、中央騎手として初勝利を挙げた。過去の中央勢は福永祐一騎手の2着が最高の成績で、なかなか勝ち星に手が届かなかったが、柴原騎手が積極的な手綱捌きで新たな1ページを記した。
内枠を利してじっとチャンスを伺ったショウリノオタケビ・林幻騎手も好騎乗。直線で一旦は頭ひとつ出たが、そこからダイナナワンダーに差し返されての惜しい内容だった。
後方から追い上げたポライトワールドの五十嵐雄祐騎手が3着で中央勢は1・3フィニッシュ。唯一の3桁勝利を挙げており注目だった福山の池田敏樹騎手はこの3着争いに加わったが4着まで。5月にマカオ見習騎手招待に遠征が決まっており、こちらでの活躍を期待しよう。
そしてメインの黒船賞の結果はこちら。
着 馬番 馬名 斤量 騎手
調教師 タイム着差上がり人気
1 6 ディバインシルバー JRA 57
安藤勝 和田正 1:26:4 37.8 2
2 5 ノボトゥルー JRA 59
武 豊 森秀行 1:26:6 1 36.4 1
3 3 ホクザンフィールド 兵 庫 56
岩田康 橋本忠 1:27:2 3 37.3 5
4 11 ノボジャック JRA 59
小牧太 森秀行 1:27:2 頭 38.5 4
5 10 タイキシェンロン 岩 手 56
菅原勲 佐々由 1:27:4 1 38.3 6
6 4 ベストライナー 高 知 56
中越豊 松下博 1:28:1 3 38.6 7
7 7 マルカバリー 笠 松 56
佐藤友 原隆男 1:28:9 4 38.3 11
8 2 ウォーターダグ 高 知 56
西川敏 大関吉 1:28:9 首 37.1 10
9 8 キウィダンス 愛 知 54
吉田稔 角田輝 1:28:9 頭 39.7 8
10 9 マッケンリーダー 高 知 56
明神繁 雑賀秀 1:28:9 首 38.1 12
11 1 アサヒミネルバ 高 知 56
中西達 大関吉 1:29:1 1 39.4 9
12 12 ウインクリューガー JRA 59
武幸四 松元茂 1:29:2 首 40.3 3
ディバインシルバーは第2回の優勝馬・テセウスフリーゼのレコードタイムにコンマ4秒及ばなかったものの、文句の付けようがない内容での逃げ切り勝ち。これで昨夏のクラスターCに続いてG32勝目をマークした。1コーナーまでに“持続できるスピード”の差を見せ付けてハナを奪うと、懸念されたノボジャックのプレッシャーを受けることなく単騎ですいすいと先行。こうなるとG1との斤量差2キロがモノを言う。安藤勝巳騎手も「小回りでスピードを生かせた」と語るように1400mの距離もこの展開なら問題なし。
不良馬場をも完全に味方につけた完勝だった。
ノボトゥルーは8歳になっての根岸Sの内容も良く、この日は一番人気に推された。59キロを背負いながらも最速の上がりで2着に食い込んだが、先行馬があれだけ楽をすると差し切るまでには至らない。僚馬ノボジャックがやや追走に苦労してディバインシルバーを突付けなかった以上は致し方ないか。それでも3度目の黒船賞で昨年に続く2着と、最初の参戦時(第5回・7着)に比べれば随分と対応力がついた印象。
3着のホクザンフィールド。5番人気だったから健闘と呼んでもいいだろう。岩田康誠騎手は昨年のタッチダウンパスに続いて2年連続の3着だ。また、3~4着争いの頭差勝負は岩田康誠騎手と、JRAに移籍したばかりの小牧太騎手(ノボジャック)だった。兵庫の2トップだった両騎手が高知でこうして叩き合いを見せた事はとても感慨深い。
そのノボジャックはやはり斤量泣きの部分があったかもしれない。またスピードとパワーのバランスからいってももう少し乾いた馬場なら結果が違ったかなという印象もある。返し馬はかなりテンションが高かった。今回は得意コースながら、やや条件が揃わなかったようだ。
タイキシェンロンは間隔が開いたことや長距離輸送、初のダートグレード参戦という事を考えれば好走の部類。今後短距離のダートグレードでかなりやれるのではないか。
地元高知ではベストライナーが最先着の6着。ただしホクザンフィールドが仕掛けていった際に、外から上がってこられてやや戦意喪失気味になったとのこと。仕上がりは良かったし、入着の可能性は見せたのだからまずまず。元々上山からの移籍組の中でも最強クラスではなかっただけに、高知でのスタッフと相性が良かったとか、コースに適性があるとか、複数の理由でここまでのレースを見せるようになったのだろう。
ウインクリューガーは前半、先行勢に加わろうとしながら行きっぷりがもうひとつ。そこが全てだったかもしれない。明後日の高松宮記念に出走を予定しているが、昨年秋のマイル戦線での結果がもうひとつと言う事で、ダートあるいはスプリント戦などを使って適性の新たな可能性を探っているというところか。
さて、黒船賞の後の第10競走に行われたYSダービージョッキー特別。実は現場に来ていた人々でないと分かりにくいかもしれないと前置きしておくが、“高知競馬春祭り”という名称の通り、これはもうお祭りであった。黒船賞の表彰式中に武豊騎手&ハルウララが本馬場に登場してくると大歓声。インタビュー中の安藤勝巳騎手と筆者が同時に後ろを振り返り、顔を見合わせて苦笑い…。この瞬間、「これはお祭りなんだ…」と直観。レース後には機転を利かせた武豊騎手のウイニングランならぬ“ルーザーズラン”でまた大歓声。トークショーのために来場されていた競馬解説者の方までもがこのシーンで涙を流されていたという。
なんとも不可思議な状況でこの日の幕が降りたわけだが、これはこれでいい。明日をも知れぬ身の上だった未勝利馬が、いつの間にかこれだけの声援を浴びる立場になっている…。まあそんなおとぎ話のひとつやふたつに無理やりどこかで聞いたような意義だの意味合いをのせる必要などは、ない。