高知競馬の平成15年度がついに船出をした。
高知競馬、ひいては地方競馬生き残りのためのテストケースとなりうるのかどか…。設置者である高知県・高知市をはじめ、現場で奮闘する厩舎関係者、そして競馬ファンまでをも含めた”闘い”の年度である。収支均衡の命題達成と、今後に向かって明るい希望を見出せる1年となるよう心から祈りたい。
ご存知の通り、昭和60年の競馬場移転に関わる設備償還費と平成14年度までの累積債務を設置責任者である高知県と高知市が負担をするという方針が決定し、苦渋の選択の中で「これ以上赤字を出さない」という条件の下、今年度の開催、つまりは高知競馬の存続に道が開かれたという経緯がある。
地方・中央を含めて日本の競馬主催者というのはあらかじめ年度当初に予算を組み、その予算執行を行う事を競馬開催計画の根幹としてきた。もちろん高知競馬もその方式で経営されてきており、例えば平成○○年度は100億円の売上げを見込み、よって支出が25億円であれば収支均衡とするわけだ。
(注・競馬をはじめとする日本の公営競技はすべて控除率を25%としている)
もちろん「公営」であるがゆえのこのやり方には大変シビアな感覚がなければ大変な事になる。つまり平成不況の中、売上げが毎年下がっているのにも拘らず前年と同様の予算を組めばその分だけが赤字になるのは必定。改めて説明するのも字数の無駄のようだが、全国の地方競馬では分かっていながら手を打てずにずるずると累積赤字を増大させた例が実際に多いわけだ。「思考停止」と厳しい言葉を投げかけられても反論の余地はなかっただろう。しかし公営ゆえにこうしたシステムの甘さがあるとすれば、逆に公営だからこそ長年にわたって競馬という事業で汗を流して来た関係者を「失業者」に出来ないという倫理が働いているのも事実だろう。
今年度の高知競馬はこの「予算執行方式」、つまり組んだ予算の分きっちり支出するという方式を採らない。一部報道では「出来高払い制」とも命名されたが、赤字を生まないよう収入の状況に応じて支出を調整する、やり方で再建を計ろうというわけである。一般企業においては当たり前の考え方だろうが、少なくとも地方競馬では初の試みとなる。このため高知競馬では曜日や多種公営競技との兼ね合いによって開催一日辺りに細かく売上げ目標額を設定し、それに対する実際の売上げ額で状況を把握しようと事務局に「棒グラフ」が登場した。正に民間企業の「営業部」的な発想である。新年度、ここまでの「営業成績」は以下のようになる。
-----------------------------------
平成15年度高知競馬
第1回開催(6日間)、第2回開催前半(3日間)
延べ9日間の累計
-------------------------
売上目標額 656,357,700円
(一日平均 72,928,633円)
実際の売上 642,162,800円
(一日平均 71,351,422円)
累積達成率 97.8%
-------------------------
売得金額の発売所(方法)別内訳 (本場には外向け前売り含む)
高知競馬本場
390,789,500円(60.85%)
パルス高知
107,589,300円(16.75%)
パルス宿毛
123,868,300円(19.28%)
電話投票
19,915,700円( 3.10%)
-----------------------------------
最も気になる目標額に対しての達成率は98%弱。これならやれる、という感を抱かれた方も多いかと思う。筆者にしてみても、この時点でまったく収支均衡に望みのない数字が出てくればこうして紹介するのも気がひけるところだったが、とにかく希望をつなぐ状況であることは喜ばしい。
上の資料では読み取れない部分、これはプラス面もマイナス面も含んでいるのだが、その辺りを少々捕捉しておこう。
まず第1回開催6日間は目標額を平均して15%程度下回っていた。悪天候に加え、初日・2日目は高知競輪S級戦の本場開催と競合したこと、賭け式変更により枠番連勝式に親しんだ方にとまどいがあったこと等、いくつかの理由の複合が考えうる。だが一番大きかったのは5日間11レースを1開催とするパターンから、この開催では6日間10レース制となった結果、丁度最終競走1レース分だけ売上げが落ちたという部分ではないかと思われる。当然、主催者側としても11レース組みたいところだが、そうなれば6日間で66レースを用意せねばならず、これまでの5日間11レース制の55レースに対して11レース分の番組を増やさなければならないジレンマに陥る。
ちなみに頭数の問題だが、第1回開催ではサラブレッド系327頭、アラブ系149頭の計476頭が出走している。(ニ走出走馬を除く)ニ走目の番組が11レース組まれていたから、残り49レースで計算すれば平均9.7という頭数だったことになる。もしこれを11レース制にするため60レースで割るならば平均は7.9頭しか確保できない。日程の確保、開催曜日、出走頭数、更に在厩馬のローテーションを考えれば今後もこの部分の調整はデリケートな問題となってくるだろう。
続いて第2回開催の前半3日間だが、ゴールデンウィークの三連休に素晴らしい晴天という絶好のコンディションとなった。本場の入場人員もキャラクターショーなどが行われた5月4・5日には3300~3500近い数字となり、これが全体を押し上げたため上記の資料では本場の売上げの割合が比較的高めとなった。目標額に対してもサラ系A級の端午特別が行われた5月5日は133.5%の売上げを記録。9日間の累計達成率は、こうして第1回開催の赤字分をゴールデンウィークで取り戻したという捉え方が出来よう。
目標額自体が低めに設定されているため、現時点での数字を楽観視できない点もある。更に第4回開催が再び6日間の開催となるが、ここで第1回開催のような売上げに甘んじるわけにもいかない。個人消費支出が全国的に低下している中で、いかにしてたくさんのお客様を迎える事が出来るかどうか…。
しかし、高知競馬は今現実にこうして”思考停止”を乗り越え懸命に模索している。先ほど「目標設定額が低め」と書いたが、それは関係者の相当なる努力の証である。絶望的な状況ならともかく、あと一歩で目標に達しようというところまで頑張っているのだ。なんとかこの一歩が届くようにと重ねて想う。
さて、スター候補生「新・白い怪物」イブキライズアップが13連勝でついにAB混合戦へと登場する。改めてこの馬について簡単に紹介しておこう。
-----------------------------------
☆イブキライズアップ
1998年生 牡5歳 芦毛
宮路洋一厩舎 主戦・花本正三騎手
父イブキマイカグラ
母イブキプランタン
母の父ジェイドロバリー
中央1戦未勝利
高知14戦13勝3着1回
連対時の体重490~510kg
祖母 アルズアニー
(1979芦 父Al Hattab)
叔父 オーディン
(1989牡芦 父ノーザンテースト)
平安S2着
叔父 バイタルフォース
(1992牡芦 父ノーザンテースト)
すみれS1着
母 イブキプランタン
(1993牝芦 父ジェイドロバリー)
不出走
イブキライズアップ(本馬)
蹄に問題があって中央では結局1度走っただけだったが、高知でじっくりと立て直されて再デビュー。2002年1月の緒戦こそ3着も、2戦目で初勝利を挙げると途中休養を挟みつつも13連勝。前走は初のB級戦だったが、ここでも道中砂をかぶった時に行きッぷりがやや悪かったものの、勝負所からはまったく危なげのない決め手を見せて圧勝。次走は5月10日(土)の最終競走サラ系AB混合1600m戦に登場予定だが、ここでもこれまでのような圧勝を見せるようだと、いよいよOPクラスしか相手がいないことになる。まだここまで「鞭で気合をつける必要がなかった」と語る花本騎手にとっても、ついに現れたサラブレッドの大物に対する期待が膨らむ。跳びが大きく、それほどスタートダッシュが利かないとの事で1600m以上が理想との事だが、連勝のまま建依別賞制覇とでもなれば、これはとてつもない怪物かも知れない。何度か書いて来たように叔父が中央未勝利から新潟競馬で頭角を現し、中央へ挑戦した平安Sで2着となったオーディン。化骨に時間が掛かる血統だけに、高知で本格化しての全国区デビューという筋書きもまんざら夢ではないだろう。