高知競馬の出馬表の血統欄にアルファベット表記が増えたのはここ5年ほどのことになる。現在もメドウレイク(MeadowLake)産駒やウッドマン(Woodman)産駒が複数在籍するなど、それほど珍しくもなくなりつつあるが、重賞勝ち馬となるとまだ4頭に過ぎない。
血統の世界を楽しくする外国産馬の知識への入り口として、この4頭についてご紹介しよう。
高知競馬初の外国産馬による重賞制覇は96年の建依別賞。ダイジュマルが人気のレースだったといえば思い出す方も多いだろう。
そう、勝ち馬はクロスオーシャン(牡・山岡恒一厩舎)である。
クロスオーシャンはJRA時代1000~1200のダートで4勝した準オープンクラスの馬で、500キロ前後の大型の馬体でパワフルな先行力が武器の「いかにも」な米国産馬である。
父シアトルソング(SeattleSong)は仏・愛・米と3カ国で出走してフランスの2歳GIサラマンドル賞と、米のワシントンDCインターナショナルGIに優勝。2カ国以上のGIを優勝するというのは想像以上に困難であり、その辺りは評価されるべきだろう。
母スパニッシュサーチは日本に輸入されており、現在ではカタカナ表記馬である。クロスオーシャンの妹達はJRA2勝以上の馬が4頭も出ている。中でもダービーラブリネス(父トロメオ)は5勝をマーク。クロスオーシャンの甥・姪がこれから増えていきそうだ。
母の父は泣く子も黙るミスタープロスペクター(Mr.Prospector)。
どちらかというと芝の活躍馬が多いシアトルソング産駒のクロスオーシャンがダートの短距離で活躍したのはこのブルードメアサイヤーの影響が大だろう。
2頭目はエイシングランツ(牡・竹内昭利厩舎、現役馬)だ。
JRAでたった15戦ながら6勝をマーク、ダートの中距離ばかりでオープンにまで昇格している。やはり現在と同じように脚下との戦いだったのだろうか、それでも地力は相当な物だったはず。
高知競馬では移籍直後にナムラコクオーが勝った黒潮スプリンターズカップを2着、次走の黒潮マイルチャンピオンシップで念願の重賞初制覇を遂げている。
父のキュアザブルース(Cure the Blues)は米国産で2歳時にGIローレルフューチュリティーなど5戦5勝。3歳時に伸び悩んだという競走成績だが、種牡馬となってはジャパンカップ勝ちのルグロリューなど成長力のある産駒を多数送り出している。血統表中にあるドクターファーガー(Dr.Fager)はマイルの世界レコードを出した名馬で名種牡馬ファピアノ(Fappiano,ミスタープロスペクターの活力ある後継馬)の母の父でもあるように隠し味的な存在であり、キュアザブルースの底力を支えている。
さて母パーフェクトプレーン(PerfectPlane)だが、アリバイにネヴァーベンドにリイフォーという代々掛けられた種牡馬を見ると完全に芝で良い配合ではないか。更にキュアザブルースとくれば、エイシングランツがもし丈夫な脚下をしていれば、芝でかなり活躍できた可能性が見えてくるのである。
3頭目はおなじみマチカネホシマツリ(牡・松岡利男厩舎)だ。JRAデビューの予定で栗東で調教していたが、そこで一頓挫があって高知競馬場でのデビューとなった。恐らく血統の字面だけなら高知競馬史上最高の馬と言っても良く、50万ドル以上の金額で輸入されたという栗毛の馬体は他に類を見ない垢抜けたものだった。
父フォーティナイナー(FortyNiner)は現在本邦輸入馬だが、ホシマツリは輸入以前の産駒に当たる。現役時には2歳GIフューチュリティーS、シャンペンSなどを勝って全米2歳チャンピオン。
3歳時にもトラヴァーズSなどを制しているがクラシックには縁がなく特にケンタッキーダービーは牝馬ウイニングカラーズに首だけ届かずの2着。種牡馬としてはなおの活躍ぶりで、日本に輸入された後でベルモントSのエディターズノートらが出てブレーク。故郷アメリカから買い戻したいとの熱烈オファーがあったのは有名な話。
父だけでも「高知デビューのフォーティナイナー産駒!」と話題になるところだが、マチカネホシマツリが凄いのは実は母上様。母インヴァイテッドゲスト(InvitedGuest)はイギリスのGIIフィリーズマイル(現在はGI)の勝ち馬。その父ビーマイゲスト(BeMy Guest)といえばペンタイア(キングジョージ勝ち馬)やアサートなどを送るノーザンダンサー系の一流種牡馬。高知では黒船賞勝ちのビーマイナカヤマの母父としてもおなじみである。
無限の可能性を秘めていたマチカネホシマツリ。単騎先行したメイショウタイカンを捉えた建依別賞、そしてゴール寸前にホウエイパーシャを差しきった珊瑚冠賞と重賞を2勝したが、筆者の印象に強く残っているのは全日本サラブレッドカップへの遠征直前に出した調教時計。4Fから48.0-36.3-11.1だったという。その体躯にはどれだけの潜在能力が秘められていたのだろう。返す返すも残念な夭逝である。
最後は黒船賞初の外国産馬優勝を果たしたノボジャック(牡・栗東、森秀行厩舎)。2000年の根岸Sでブロードアピールの3着に入るなど短距離ダートへの適性はすでに垣間見せていたが、黒船賞・群馬記念と交流重賞を連覇。いよいよ今年はこの路線の大将格になりそうな勢いを見せている。
父フレンチデピュテイ(FrenchDeputy)はこの春から日本で供用されているが、これは当然ノボジャックやクロフネの大活躍によるもの。大種牡馬デピューティミニスターの直仔で米国での競走成績は6戦4勝。重賞勝ちはジェロームハンデGIIのひとつだけながら他のアローワンス(条件戦)でも大差勝ちを見せた天才肌だったようだ。早熟・短距離・ダートという評価を見る事も多いが、身体能力の高さを見せ付けた種牡馬の場合、配合牝馬との組み合わせ方によって多彩な産駒が出る可能性が高い。ノボジャックはどうだろう。
母フライトオブエンジェルズ(Flight of Angels)はアフリートの産駒。大分ここで結論が限定されてくる感じだが、後はドローン(Drone、ダンシングブレーヴの母の父)が登場して底力を補強している。軽快なというよりも重厚なスピードで押し切るイメージと地方競馬の交流重賞はピタリと合ってくるだろう。
明日(27日)に東京競馬場に登場するクロフネの方はどうだろうか?これは筆者のコラムの範囲外という事でしっかりとレースの方を楽しみたい。
サラブレッドが世界中で走っている以上、外国産馬の事を知り、更にそれを楽しめるようになるのは素敵な事だ。世界のあらゆる競馬と高知競馬が繋がっている事実を実感できるようになるからである。