高知競馬 リーディングジョッキー物語

 平成10年3月、リバーセキトバの鞍上で大きな大きなガッツポーズを見せた青い勝負服が高知競馬に“帰って”来る。そう、「こうちスタージョッキーシリーズ」に招待された北野真弘騎手の事だ。
昨年の10月に兵庫県・園田競馬場で騎手として再デビュー後、早くも23勝をマーク。7度もリーディングジョッキーに輝いた男が2年ぶりに高知競馬場で見せる騎乗に期待したい。
 本来、高知でリーディングジョッキー6度という“豪腕”徳留康豊騎手も招待されていたが、落馬事故によるケガで今回は残念ながら参加ならず。ここぞと言う時に信頼感抜群のあの騎乗を見るのはまた次の機会をお楽しみに…。

 さて、高知競馬の過去のリーディングジョッキーについてまとめておこう。まず最初に下記の資料をご覧頂きたい。

     1位         2位         3位
昭和
47年   打越初男  96勝   能勢 巌  73勝  松下博昭  67勝
48年   打越初男 117勝   西田義美  82勝  片岡明一  78勝
49年  打越初男 106勝   西田義美 102勝  片岡明一  74勝
50年   打越初男 120勝   西田義美 112勝  谷 力   94勝
51年   打越初男 115勝   細川忠義 112勝  松木啓助  82勝
52年  打越初男 122勝   細川忠義  95勝  辻松忠志  84勝
53年   打越初男 114勝    細川忠義  92勝  田村道明  71勝
54年   打越初男 126勝   細川忠義  85勝  松木啓助  72勝
55年度 打越初男 126勝  竹内昭利  85勝  松木啓助  83勝
56年度 打越初男 117勝  松木啓助  80勝  竹内昭利  55勝
57年度 打越初男 119勝  松木啓助 100勝  細川忠義  67勝
58年度 松木啓助 136勝  打越初男 132勝  鷹野宏史  88勝
59年度 打越初男 145勝  鷹野宏史 123勝  竹内昭利  70勝
60年度 鷹野宏史 113勝  打越初男 105勝  細川忠義  94勝
61年度 徳留康豊 119勝  打越初男  92勝  鷹野宏史  84勝
62年度 徳留康豊 129勝  打越初男 107勝  鷹野宏史  99勝
63年度 徳留康豊 104勝  打越初男  85勝  鷹野宏史  64勝

平成
 元年度 徳留康豊 103勝  鷹野宏史  91勝  田中 守  70勝
 2年度 鷹野宏史 106勝  西川敏弘  99勝  徳留康豊  91勝
 3年度 徳留康豊 110勝  田中 守 108勝  鷹野宏史  97勝
 4年度 徳留康豊 103勝                 鷹野宏史  97勝
       北野真弘 103勝
 5年度 北野真弘 104勝  鷹野宏史 100勝  西川敏弘  91勝
 6年度 北野真弘 128勝  鷹野宏史 115勝  西川敏弘  88勝
 7年度 中越豊光 134勝  北野真弘 114勝  鷹野宏史  90勝
 8年度 北野真弘 146勝  西川敏弘 114勝  中越豊光  90勝
 9年度 中越豊光 114勝  北野真弘 105勝  西川敏弘 100勝
10年度 中越豊光 140勝  北野真弘 139勝  西川敏弘  93勝
11年度 北野真弘 153勝  西川敏弘  98勝  徳留康豊  94勝
12年度 北野真弘 168勝  中越豊光 138勝  西川敏弘 103勝
13年度 北野真弘 135勝  中越豊光 116勝  西川敏弘 116勝
14年度 中越豊光 129勝  西川敏弘 105勝  中西達也  84勝
15年度 中越豊光 154勝  西川敏弘 119勝  中西達也 117勝

16年度 (1月10日現在)
     西川敏弘  98勝  倉兼育康  84勝  中西達也  80勝

 この表は高知競馬の歴代リーディングジョッキーを一覧にしたものである。過去に遡ると昭和42年から資料があるのだが、高知県競馬組合のまとめが当時は年次(1月から12月まで)になっていて、年度で競う現在のリーディングと整合性がないため、打越初男現調教師が初リーディングを獲得した昭和47年から掲載してみた。

 この資料についての注意点は

1、昭和54年までは年次成績、それ以降は年度成績となっている
2、他場遠征での勝利数はリーディングの成績に反映されない
3、1着同数の場合は2着の多いほうを上位とする、ただし2着も
  同数の場合同点として扱う(平成4年度の首位は2人)

であって、筆者が今回集めることができた資料ではまだ不完全な部分もある点をご容赦のほど。またこの一覧表作成にあたっては高知競馬の予想紙、中島高級競馬号の資料を参考にさせて頂いた。

 さてさて、まず目を引くのは打越初男騎手の華麗なる活躍ぶり。今ではストロングボスの管理調教師としてすっかり御馴染みだが、現役当時も正にミスター高知競馬といった成績を残している。何しろリーディング獲得回数が11年連続を含む12回。これはいずれも高知競馬記録で、更に通算勝利数2242勝も高知の最高記録。大井で行われる全日本リーディングジョッキーを優勝したこともあ
り、連対率も4割は当たり前で昭和55年には5割1分6厘という信じがたい数字を残している。
 打越騎手は開催日毎に騎乗に関するノートをつけていたと言う。そこにはどうしてそのレースを勝ったのか、あるいは負けたのか、細かい分析が記されていたそうだ。プロスポーツ選手としての不断の努力、そう書くと簡単なようだが果たしてそうだろうか?ともすればリーディングジョッキーであることが自らの足許を危うくする。
それを防ぐ為の“自分との戦い”が打越騎手の大記録を生み出した、と捉えておきたい。

 そんな打越初男騎手の連続リーディングを止めたのが、現在マルチジャガー管理調教師である松木啓助騎手だった。昭和56、57年度と続けて2位という成績からついに昭和58年度に念願のタイトルを獲得。結果的にリーディングジョッキーとなったのはこの年だけだったが、136勝は当時の高知競馬新記録。松木騎手の勝負服の基本色だった赤と青は、後に松木厩舎に所属する騎手に受け継
がれていく。徳留康豊騎手、川江光司騎手、西山裕貴騎手と皆がその色をまとって勝負に臨んだ。

 昭和59年度。打越初男騎手が145勝というすさまじいまでの勝ち星を挙げてリーディングに返り咲き、そしてまた高知市桟橋の競馬場に別れを告げる時が来た。昭和60年4月、高知市長浜の現高知競馬場への移転である。舞台、時代、年齢、全てが移りゆきて新競馬場で最初のリーディングジョッキーに輝いたのは鷹野宏史騎手だった。デビューした昭和57年に44勝、2年目には早くも88勝を挙げて3位にまで食い込んでいたこの若手が移転元年に頂点に立つ。そんな鮮やかなストーリーが現実のものとなったのだ。その鷹野騎手も今はベテラン。高知県知事賞を6度も制し、金字塔である通算2000勝まであと23勝に迫っている。

 しかし名古屋競馬場からやってきた一人の男がまた時代を動かしていく。“豪腕”徳留康豊騎手である。移籍初年度から旋風を巻き起こしたこの人に掛かると馬が動く、動く。昭和61年度から平成元年にかけて4年連続リーディングジョッキー。平成2年度は鷹野宏史騎手が奪い返したものの、翌年は再び首位で、6年で5度の栄冠を掴み取る。徳留時代はまだまだ続くかと思われた。
 
 そして平成4年度、高知競馬のリーディングジョッキー史に残る名勝負の年がやってきた。前年に4位と進境を見せる若手、北野真弘騎手がついに徳留康豊騎手に肉薄していた。3月30日、年度最後の開催、そして最終日。この日を迎える時点での2人の成績は

徳留康豊騎手 101勝 2着81回
北野真弘騎手  99勝 2着78回

と、ほとんど差が無い。騎手が控える検量室周辺にも普段に増してピリピリとした空気が漂う。この日のわずか一鞍の成績でリーディングジョッキーが替わるかもという緊張感。もう一度ルールを説明しておこう。リーディング成績は1着の数で決まるが、1着が同数の場合は2着の回数が多い方を上位とする。2着も同数の場合、同点となる。際どい勝負となったこの最終日をドキュメント風に追ってみよう。

 運命の一日、まずは第1レースで北野騎手のスピードクルーズが1着となる。これで1勝差。第2レースは北野騎手のゴルデンヴォイスが伊原騎手のヘルスメロディーにハナ差負けで2着。しかし2着回数で2差として徳留騎手にプレッシャーを掛ける。
 第3レース、北野騎手のセイワタイカンが好位から抜け出したところに徳留騎手のノースパワーが襲い掛かって差し切る。
ここまでの成績は、

徳留康豊騎手 102勝 2着81回
北野真弘騎手 100勝 2着80回

となった。こう書いているだけでビリビリと緊張してくる。まだ筆者が高知競馬に縁がなかった頃の話なのだが、実況してみたかったような、あるいはファンとして見ていたかったような…。

 第5レース、北野騎手のパワフルガイは西川騎手のモガミノーザリーにクビ差負け。またも僅差の2着だが、ついに2着回数が並ぶ。そして第6レースで北野騎手のゲンジコウが1着となって、再び1勝差である。しかししかし第7レース、徳留騎手のハッピージェイクが新人・中越豊光騎手のワッスルジョージをクビ差捉えて1着。
この時点で2人の成績はこうなった。

徳留康豊騎手 103勝 2着81回
北野真弘騎手 101勝 2着81回

 北野騎手が2勝しないと追いつけない。そして第8レース、北野騎手のクリムゾンテーストが、逃げ粘る中越騎手のサンディクタスをゴール板の直前で交わす。その差はわずかに頭ひとつ!!そして2人のリーディング争いはついに1勝差というギリギリのせめぎ合いで残り2レースに突入した。

 メイン第9レース。サラ系A級のレースで快調に飛ばすのは川野騎手のハギノミリオネール。好位からこれをマークする北野騎手のイブキノセイウン。だが、その直後には鷹野騎手を鞍上に先の高知県知事賞を制したミスピノキオが迫っていた。直線抜け出すイブキノセイウン、勝てば徳留騎手に並ぶ。しかしグングン追い詰めるミスピノキオ。2頭の馬体が合う、際どい態勢でゴールイン!!
 ハナ差、わずかにハナだけ抜けていたのはイブキノセイウン。ついに北野真弘騎手が徳留康豊騎手に並んだ瞬間である。そして最終レースに単独リーディングを賭けた徳留騎手が4着に敗れ、2人同時のリーディングジョッキーが確定。ようやく息詰まるような高知競馬の一日に幕が降りた。この日の出来事は勝負に全てを注いだ男達の熱き思い出としていつまでも語られる事だろう。徳留康豊騎手も「あの時のような勝負をもう一度したいんだ」と語っている。

 その後、北野真弘騎手は平成6年度まで3年連続リーディング。次なるライバルはベテランではなく、日本プロスポーツ大賞新人賞を受賞した若き才能だった。そう平成7年に初めてリーディングジョッキーに輝いた中越豊光騎手だ。ハッコウマーチやナムラコクオーなど印象的な活躍馬が多い中越騎手はその後、平成9,10、14,15年度にリーディングジョッキーを獲得。年齢からまだまだ数字を伸ばす可能性があり、イヴニングスキーの勝利数日本記録挑戦(現在36勝、日本記録はニホンカイキャロルの46勝、サラブレッドではブライアンズロマンの43勝)など注目されるシーンの多い巡り合わせを持つジョッキーだ。

 平成11、12,13年は北野真弘騎手が爆発的な勝ち星で再び3年連続リーディング。平成8年と合わせて合計7度のリーディングだ。特に平成12年は年間168勝と自らが持つ高知競馬記録を塗り替えたが、これは当分破られそうも無い大記録だ。その後、兵庫県に移籍する事になった経緯については当コラムのバックナンバーにも書かせてもらったので参照されたい。

 今年度(16年度)は1月10日現在、西川敏弘騎手が2位以下に14勝差を付けてトップである。正に念願の初リーディングへ快走中だ。しかも南国桜花賞、マンペイ記念、黒潮皐月賞、南国優駿、高知優駿、荒鷲賞と地元重賞6勝で内容も濃い。更にマルチジャガーでの全日本アラブグランプリ優勝は近年にない高知所属馬のタイトル制覇で話題となった。
 これを追うのが現在84勝の倉兼育康騎手だ。思い切りのいい騎乗で年々勝ち星を伸ばしてきたが、ついにトップの背中が見える位置に来た。もちろん現在80勝で3位の中西達也騎手もあきらめる数字ではない。この3人の誰がリーディングとなっても初のタイトル。上記の表をもう一度ご覧頂きたい。それまでリーディングだった騎手がその座を奪われると、必ず翌年におつりを付けて借りを返すという傾向が見えないか。これはすなわち乗り馬に恵まれるとか、運があったとか、そういった事を越えて現れる馬乗りの滾った血潮のように見えないか。リーディングジョッキーとはそれだけの想いを託せるタイトルなのだなと、改めて思わせる。

 さあ、この週末は「こうちスタージョッキーシリーズ」。3戦制で土曜日に一鞍、日曜日に二鞍を予定している。騎乗馬を抽選で決定し、1着20点、2着15点とポイントを付けていって合計ポイントで優勝を争う腕比べである。参加騎手は北野真弘騎手と鷹野宏史騎手、中越豊光騎手というリーディング経験者と、今年度のリーディング上位騎手(西川敏弘、倉兼育康、中西達也、赤岡修次、宮川実、明神繁正、花本正三、西内忍)で計11名。同じトラックの上で熱い想いをぶつけ合うレースを見たい。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 高知競馬のサラブレッド、アラブのグランプリ競走が12月31日、1月1日にそれぞれ行われ、勝者の栄光が年末年始を彩った。いささか遅くはなったが、その両レースを振り返っておこう。

 サラブレッドのグランプリ、第35回高知県知事賞は意外にもこれが重賞初制覇となったイブキライズアップが3馬身で快勝。一番人気のストロングボスの先行策を好位集団の後ろで追走し、勝負所では一頭だけすいすいと馬群を上昇して差し切った。
 トモの不安がまだ陰を落とす状態だったというが、長距離戦の流れでじっくりと行けたのが最大の勝因と見る。花本正三騎手の落ち着いた手綱捌きも見事だった。入線後はやはり涙がこぼれたというその花本騎手。故障を繰り返してきた馬での勝利に感無量といった風情であった。
 ストロングボスは自分なりのレースをして、直線入り口で交わされても大きく崩れる事なく2着。今回はやはり距離と割り切った方が良さそうだ。
 ナイキアフリートは決めて掛かったように最後方からの追走。2周目向こう正面で好位まで取り付くも、そこから弾ける事は無く5着まで。こちらは距離よりも中間が順調でなかった方を敗因に取りたい。珊瑚冠賞の上位3頭にはあまり差が無かったから、距離、展開、状態でいつでも着順が変わりえることを実証したレースとなったようだ。
 驚いたのはノボエンペラーの3着。斤量・展開利もあるが、早くから見せて来たポテンシャルの高さを改めて証明した感がある。この馬について話題になるのはやはり“はだし”であること。蹄に難があって、前脚は鉄を打っていない。高知競馬ではこういった競走馬にもチャンスを与えているのだが、まさか重賞競走で好走馬が出るとは…。“はだしの皇帝”の今後に注目だ。

 アラブのグランプリ、南国王冠第32回高知市長賞は単勝1.1倍という圧倒的人気の4歳馬マルチジャガーが、一つ上の5歳馬エスケープハッチの強烈な末脚に屈するという決着を見た。
 11月の福山・全日本アラブグランプリを7馬身差の圧勝。アラブ3歳日本一・マルチジャガーの凱旋レースというムードだったが、今回は先頭に立つまでの過程にやや手間取り、結果的にハイペースとなり、更に2番手に付けたコウエイエンジェルが掛かりっぱなしでプレッシャーを受け、余力のない状況に追い込まれてしまった。
そこに離れた5番手から一気にエスケープハッチに来られては万事休す。今回は古馬が意地を見せた格好になったが、マルチジャガーも完全な力負けではないから今後の再対決が楽しみだ。

 エスケープハッチは「Escape Hatch(脱出口)」という意味の馬名。高知競馬にとっても明るい希望の見える年となりますように…。

キャンペーンなど
ショートムービー「遠回りの春」
「ギャンブル等依存症対策啓発動画 ~一人で悩まず、家族で悩まず、まず!相談機関へ~」