JRAでの成績を含めて7153勝というとてつもない数字を記して”鉄人”佐々木竹見騎手がステッキを置いた。
高知競馬での「チャレンジカップ競走」でも前乗りを含め数々の伝説を残してくれた。例えば豪快な追い込みが武器だったトモエスターというアラブのオープン馬での意表をつく逃げ切り勝ちや、世界歴代5位タイに並ぶ記念の勝ち星をハットリクンで挙げた事、勝っても負けても馬場を一周して声援に応える姿、筆者はたまたま佐々木竹見騎手がテツノカチドキ産駒(南関東で鉄人が主戦、騎乗馬の中でも最強の一頭とされる)に騎乗しただけで鳥肌の立つ興奮を経験している。
しかし何よりもケガで騎乗出来なかった年、わざわざ当地のファンに挨拶をするためだけに高知競馬場へやって来てくれた姿がその真骨頂だったように思う。
佐々木竹見騎手は”鏡”である。鏡という表現はお手本とも解釈されるだろうが、ここでは自分たちの姿を映す汚れ一つない鏡だと考えて欲しい。
あらゆる関係者から称えられるその人物は、筆者のような若輩者に対しても丁寧で、飾り気無く、家族思いであり、言葉は少なくとも慈愛に満ちた風情を醸しだしていた。そして勝負師でありながら普段は他人を威圧したり、偉そうにするところなど微塵もない。ケガにも寡黙に耐え、ラストランシリーズの中盤の事故から見事に復帰してみせる精神力。これほどの人物が現出しうるとは・・・。
皆が鉄人になれるわけではない。一流を超えてしまった人間だけが達することの出来る境地なのかもしれない。それでも戦後50年で行き詰まってしまった社会に生きる我々にとって改めて価値のある生き様を見せてもらったという感がある。
与えられた境遇を嘆き続ける。他人を批判することでしか自分を保てない。虎の威を借りることに慣れる。書けばキリがないが、そういった非建設的な発想に自らが陥っていないか?鉄人の生き様は筆者も含む我々の姿をありありと映し出すだけの光を放っている。
佐々木竹見騎手、本当にごくろうさまでした。そしてありがとうございました。