血統の時間~前篇~ 内国産種牡馬の産駒たち

 本当に暑かったこの夏もようやく終盤。朝晩のかすかな秋の気配は、特に早朝から調教に励む競馬場のスタッフと馬達により深く感じられるだろう。
 
 さて今回と次回のゴールポスト通信はやや肩の力を抜いて、血統の話を。

 8月21日の高知競馬第1レース。今年度2歳馬初の勝ち名乗りを挙げたのはスーパーキセキ(牝・田中伸一厩舎)だった。7月に北海道競馬旭川開催のフレッシュチャレンジ(JRA認定競走)を1戦使って6着。その後すぐに高知転入だからまだレース経験の浅い馬だが、それでも一番人気馬と並走するような先行策から後続を突き放し、あっさりと初勝利をマークしている。
 この馬のプロフィールを確認しておやっ、と思わされるのは、当馬が内国産種牡馬ステイゴールドの産駒だということ。実はその土日の開催には他にも内国産種牡馬の産駒が数頭、高知転入緒戦を迎えていた。例えばマルタカザダーク(牝3歳・炭田健二厩舎)は菊花賞馬・ダンスインザダーク、サンキョウヘイロー(牡3歳・田中譲二厩舎)は高松宮記念馬・キングヘイロー、シャルードライン(牝3歳・川野勇馬厩舎)は天皇賞馬・メジロブライトというそれぞれの産駒である。彼らの父が現役で活躍を見せていたのは、ほんのこの間だったように感じるが、こうして産駒の姿を見られるのは競馬ならではの楽しみであろう。前篇はこういったいわゆる高知所属の“マル父”馬について考察してみる。
 とはいうものの高知競馬においても“マル父”は外国産馬や輸入種牡馬産駒の活躍に押されている。数字を挙げてみよう。過去5年(平成12年度から16年度までの、サラ系古馬重賞勝ち馬の父である。

二十四万石賞 …アンバーシャダイ、ステートリードン2回、アスワン、、フジキセキ
建依別賞   …Forty Niner 、Cure the Blues、Mt.Livermore、キンググローリアス、Capote
珊瑚冠賞   …Forty Niner 、Mt.Livermore、ステートリードン、テューター、アフリート
高知県知事賞 …ジェイドロバリー、ステートリードン2回、カコイーシーズ、イブキマイカグラ
黒船賞    …French Deputy 2回、End Sweep 、Silver Deputy 、フォーティナイナー

 合計25レース、25頭の勝ち馬の中で、外国産馬が10、輸入種牡馬産駒が11の勝ち星を挙げており、内国産種牡馬産駒は残りの4勝のみである。特に1400m戦の建依別賞と黒船賞ではこの傾向が顕著で、計10頭の勝ち馬のうち8頭が外国産馬、残り2頭が輸入種牡馬(フォーティナイナーは輸入前と輸入後で表記を変えてある)であり、内国産種牡馬産駒は5年間一度も勝てなかったことになる。ちなみにすでに施行された17年度の二十四万石賞と建依別賞は共にストロングボス(父Capote)が勝ったので、今年度も今のところ傾向は変わっていない。元々ダートの短距離路線はアメリカ血統の独壇場といった傾向が強く、高知でも建依別賞においては平成8年に初めて米国産馬(クロスオーシャン)が優勝すると、今年までの10回のうち半分の5回を外国産馬が制している。黒船賞に至っては第1回こそ“マル父”リバーセキトバ(父マルゼンスター)が制したものの、以降は輸入種牡馬産駒(3度、すべてミスタープロスペクター系)と外国産馬(4度)に席捲されている。

 これらは高知競馬に限らず日本中の競馬場で見られる光景で、“マル父”に光があたったのはトウショウボーイの頃の例などがあるものの、全体的には輸入種牡馬が中心の馬産が明治から続いてきたと考えていい。更に近年は外国産馬が多数入ってきて、そのまま種牡馬入りする例も多い。”種牡馬の墓場”とまで揶揄された時代は脱しつつあるが、それでも「入ってきては(子孫が)途絶える」、つまり“マル父”として父系が続かないというサイクルにはまだ大きな変化がないように見える。

 しかし種牡馬サンデーサイレンスが大活躍を見せた後、“マル父”はこれから反撃に出るかもしれない。もちろんサンデーの2世、それも晩年、海外G1牝馬との間に生まれた産駒は国際的に見ても上質の種牡馬になろうし、またダート戦でサンデー2世産駒が大活躍する例も増えてきた。シャトル種牡馬としてタヤスツヨシがオーストラリアのG1馬を出した例も大いなる前進である。
サンデー産駒以外でも兆候はある。サクラバクシンオーのように“マル父”2代目でも活力を失わない種牡馬が出てきたし、またミスタープロスペクター系の内国産種牡馬も今後はどんどん増えてくるだろう。
 内国産馬の質の向上。振り返ればキングヘイローの父ダンシングブレーヴ、母グッバイヘイローの輸入に象徴されるように、平成9年に売上げピークを迎えたJRAの隆盛の遺産ともいうべき宝のような“マル父”がいる。近年は内国産馬が海外の重賞競走に参戦する事例も増え、そしてまた十分な成果も残している。今後の生産における彼らの活躍ぶりは如何に…。それは日本競馬の行方にも関係してくるが、今度こそ“マル父”の時代がやってくるのか?
 競馬が、そして馬産が文化であると言うのなら、何代にも渡る“マル父”血統が残ること、あるいは海外に種牡馬を送り出すことが財産であるはずだ。
 
 さて、再び肩の力を抜いて高知競馬の話に戻ろう。すぐ間近で馬を見ることが出来る競馬場では、それぞれの馬への思い入れが深まるほど楽しくなる。彼らへの想いが深まるきっかけになればと、高知競馬在籍のサラブレッド系内国産種牡馬産駒を一覧にしてみた。産駒が多数在籍する順に並べてみよう。
(種牡馬数:67頭 産駒数:138頭)
なお高知所属馬は現役馬のみで、地方競馬全国協会に8月30日時点で登録されている(まだ高知競馬場で走っていない馬も含む)データに拠った。

種牡馬名
(在籍頭数)在籍馬名

ウイニングチケット
(6)キャニオンノーブル、サクラウイニング、ツギタテファイヤー、ハヤザキ、ミヤビチャンプ、ヤングキャンドル

サクラバクシンオー
(5)アヴァンツァーレ、エーティールビー、オートバクシンオー、スペリオアザーズ、ヤマニンアストロ

ホリスキー
(5)アクションアラート、トップハンター、トナミオリンピア、ハッピーランド、バカラオブバランス

メジロマックイーン
(5)トウシンオーロラ、ニシノダイダッソウ、ポライトワールド、ユウセイヒメララ、ユキジョウ

サクラチトセオー
(4)ケイエスオナー、チトセダイヤ、トンチンカン、ブラックチトセオー

ダイタクヘリオス

(4)シンコーヘリオス、センゲントウショウ、ネオサルート、ヘリオスヤマト

ダイナガリバー  
(4)コスモナイト、ジョウシュウダイナ、ナムラヒデン、マクロスピリット

ビワハヤヒデ   
(4)イーストポイント、カガノジョテイ、シルクコンバット、ナンゴクジョオー

フサイチコンコルド
(4)セイエイカガヤキ、ソロイモン、ヒカルフクカゼ、ヨナンコンコルド

ヤマニンゼファー
(4)ガロ、グリーンフォックス、ニシノインパラーレ、マルタカベスト

アスワン
(3)セイセイコウ、テスコスプリンター、バージンギブリ

アンバーシャダイ
(3)オースミレパード、セノエタイヨー、ヒデノシーザー

サッカーボーイ
(3)アスキット、オレンジサッシュ、スルガロイター

ジェニュイン
(3)カイヨウソルトオー、トーセンライブリー、マルタカオリオン

シンボリルドルフ
(3)トモシロバラード、ナポレオンタニガワ、ホウヨウゴンタ

タヤスツヨシ
(3)グレートステップ、マックスフラワー、マルタカサイレンス

トウカイテイオー
(3)ウインクナナー、ノボエンペラー、マルタカビジン

ニホンピロウイナー
(3)トーワシュミット、ナチュラルタレント、ミツイシフラワー

バブルガムフェロー
(3)カネコメファミリー、ニシノゲッカビジン、ホーバーホーク

リードワンダー
(3)アンダーレインボー、ミサトレイソル、ワンダーキーラー

ワカオライデン
(3)キクノミューゲ、グリンセレザ、トサノライデン

キョウトシチー
(2)アラカツ、ローゼンセンプー

サクラユタカオー
(2)ジーティーセネシオ、タイキクール

サクラローレル
(2)トサノマジック、ビンバンブン

サニーブライアン
(2)エビスローズ、テイエムラビット

タマモクロス
(2)ウエスタンラブリー、ユメノカサブランカ

ダンスインザダーク
(2)カネトシフリーダム、マルタカザダーク

チアズサイレンス
(2)イケノグランプリ、イズミスミレ

ナリタタイシン
(2)アスカタイシン、ウインザーサン

ニッポーテイオー
(2)ハナコール、ハルウララ

フジヤマケンザン
(2)ウォーターペッパー、キョウニガッショウ

マヤノトップガン
(2)カネコメドラゴン、ヤンチャナウララ

メジロディザイヤー
(2)ピンクディザイヤー、マイネルアーデント

メジロライアン
(2)キャニオンルンバ、シーライアント

ラグビーボール
(2)カクテルウインディ、タルマエジロー

アイネスフウジン (1)ユーリマッシー
アウトランセイコー(1)ネイティブセイコー
イブキマイカグラ (1)ミハイルマッハ
ウインザーノット (1)ロイヤルサンサン
エアジハード   (1)セイウンディスカス
エアダブリン   (1)マルタカガロン
エイシンサンディ (1)セトノイグアス
エムアイブラン  (1)ティティランド
オフサイドトラップ(1)クリムゾンデビル
キングヘイロー  (1)サンキョウヘイロー
サクライットー  (1)モユルココロ
サクラロータリー (1)イヴニングスキー
サマーサスピション(1)チョイス
サンデーウェル  (1)ハローウェル
ステイゴールド  (1)スーパーキセキ
スーパーシンザン (1)タカシマシンザン
テンザンテースト (1)ウエデチカラ
ナリタブライアン (1)コウエイマジック
バンブービギン  (1)リードジャイアンツ
ビッグサンデー  (1)ファイブスプレンダ
フジキセキ    (1)タイキチャペル
ベストタイアップ (1)カイヨウグランプリ
マルタカトウコウ (1)マルタカサザン
マルブツセカイオー(1)ユキゲショウ
マーベラスサンデー(1)エイティファイヤー
ミスターシクレノン(1)スーパータックマン
メジロブライト  (1)シャルードライン
メリーナイス   (1)クレメンテアー
ライブリマウント (1)ミドリノオトメ
ランドショウザン (1)ランドメモリー
レオダーバン   (1)マイサクセス
ロングニュートリノ(1)ネイティブクラウン

 懐かしい名前、つい先日まで現役競走馬だったのにと思える名前、正に多士済々である。内国産種牡馬の雄、サクラバクシンオーの産駒が多いのは想像できたが、それを抑えて一番たくさんの産駒が走っていたのは日本ダービー馬のウイニングチケットだった。

 上記の内国産種牡馬をいくつかのグループに分けてみよう。

☆☆ 日本ダービー馬 ☆☆
ウイニングチケット・ダイナガリバー・フサイチコンコルド・シンボリルドルフ・タヤスツヨシ・トウカイテイオー・サニーブライアン・アイネスフウジン・ナリタブライアン・メリーナイスの10頭。高知での産駒は28頭と多い。

☆☆ サンデーサイレンス産駒 ☆☆
ジェニュイン・タヤスツヨシ・バブルガムフェロー・ダンスインザダーク・チアズサイレンス・メジロディザイヤー・エイシンサンディ・サマーサスピション・サンデーウェル・ステイゴールド・ビッグサンデー・フジキセキ・マーベラスサンデーの13頭と増えてきた。高知の産駒数22頭だが、今後益々増加することは容易に想像できる。

☆☆ 海外重賞制覇 ☆☆
フジヤマケンザン(香港国際カップ)
ステイゴールド(ドバイシーマクラシック、香港ヴァーズ)
 いずれも海外の競馬関係者に衝撃をもたらした勝利だった。フジヤマケンザンはその日本馬らしい名前(!)もインパクトがあったようだ。ステイゴールドがドバイで負かした相手はなんとファンタスティックライト。この実績なら輸入種牡馬に対しても胸を張れるだろう。高知での産駒は合計3頭。

☆☆ ダートの活躍馬 ☆☆
ワカオライデン(白山大賞典、東海菊花賞、名古屋大賞典)
キョウトシチー(東京大賞典、名古屋大賞典、白山大賞典G3)
チアズサイレンス(名古屋優駿)
アウトランセイコー(東京ダービー)
エムアイブラン(武蔵野SG3・2回、平安SG3、アンタレスSG3)
マルブツセカイオー(東海菊花賞2回、全日本サラブレッドC、オグリキャップ記念)
ライブリマウント(帝王賞、南部杯)
ロングニュートリノ(名古屋大賞典)
 渋いと言うか、思わずニンマリしてしまう馬が多い。また東海地区の活躍馬は種牡馬になりやすいようで、マルブツセカイオーは筆者の印象に残る一頭だ。
彼らの高知での産駒は12頭。中でも高知優駿馬・ミドリノオトメを出したのが初代ダート全国交流王者・ライブリマウントだった。

☆☆ 古馬・芝短距離G1(1200~1600m戦)勝馬 ☆☆
サクラバクシンオー・ダイタクヘリオス・ジェニュイン・ニホンピロウイナー・ニッポーテイオー・エアジハード・キングヘイローの7頭。短距離G1勝馬は種牡馬として重宝されているイメージだが、高知での産駒は19頭。JRA菊花賞勝馬(ホリスキー・メジロマックイーン・ビワハヤヒデ・シンボリルドルフ・ダンスインザダーク・マヤノトップガン・ナリタブライアン・バンブービギン・レオダーバン)産駒は24頭もいるから比較的少なめに映る。

☆☆ 夢を託して種牡馬入り ☆☆
 いわゆる渋めの存在もいる。ランドショウザンはレースに不出走。人気種牡馬ブレイヴェストローマン産駒で、母も活躍馬であったところから夢を託しての種牡馬入りが推察される。高知にいる産駒ランドメモリーはJRAデビュー。
3歳未勝利戦で勝馬にコンマ1秒差まで詰め寄りながら2着という惜しいレースも見せながら結局勝てず、岩手で初勝利の後、各地を経て高知に転入している。
 マルタカトウコウは、サクラチヨノオー(日本ダービー)・サクラホクトオー(朝日杯)の兄にあたるサクラトウコウの産駒だ。現役時代はダートのスプリント戦ならオープン特別を連勝するほどの能力を見せたが、重賞ではもう一息という成績だった。希少な産駒の一頭、マルタカサザンが高知のA選抜を勝つなど気を吐いている。“マル父”3代目種牡馬。マルタカのオーナー(高橋義和氏)の強い愛情を感じるエピソードではないか。

☆☆ こんな対決が面白い? ☆☆
1、ウイニングチケット・ナリタタイシン・ビワハヤヒデ
 三冠を分け合った3頭の産駒の対決はあるか?2004年4月18日に高知競馬第2競走(7頭立て)で対決したのはキャニオンノーブル(ウイニングチケット)、アスカタイシン(ナリタタイシン)、シルクコンバット(ビワハヤヒデ)の3頭。結果は…。シルクコンバットが3着、アスカタイシンが5着、キャニオンノーブルが7着で、ビワハヤヒデの勝ち?他にも多数こういった例が生まれている可能性があるが、全ては調べきれず…。

2、キョウトシチーの弟とキョウトシチー産駒が…
 これはもうすでに実現している。共に2002年生まれのビッグハリケーン(キョウトシチーの弟)と、アラカツ(キョウトシチー産駒)だ。この2頭は高知転入の時期も同じで、人間風に言うと叔父と甥の関係にあたる。初対決は今年4月24日の3歳戦。ビッグハリケーンが3着でアラカツが4着と叔父の勝ち。その後も直接対決ではビッグハリケーンが4連勝と面目を見せるも、初勝利はアラカツの方が早くて6月12日。8月6日の対戦でもアラカツが連敗を止めて先着したが、ビッグハリケーンも8月26日に初勝利を挙げて、これで1勝馬同士。今後もライバル対決が続くか?

3、トウカイテイオー・レオダーバン・イブキマイカグラ
 言わずと知れた皐月賞・ダービーと無敗の二冠馬で、ジャパンカップ・有馬記念まで制した名馬トウカイテイオーに対し、同世代の阪神3歳S馬で大器と呼ばれたイブキマイカグラ。そしてトウカイテイオー不在ながら最後の一冠・菊花賞を制したレオダーバン。それぞれにドラマを生んだこの3頭の産駒は高知のA級で個別に対戦している。
 上記のリストにはもう名前がないのだが、高知のイブキマイカグラ産駒と言えば悲運の名馬イブキライズアップ。トウカイテイオー産駒のノボエンペラーとは昨年末の高知県知事賞で対決してイブキライズアップが優勝、ノボエンペラーが3着。またレオダーバン産駒のマイサクセスとは2004年7月19日に初対決で、これもイブキライズアップが勝ってマイサクセスが4着…。3頭の中で唯一クラシックを勝てなかった父の無念を、ほんのちょこっとだけ晴らしたか…。

 といった具合に、やはり“マル父”馬の楽しみは現役時代を知っているという点につきよう。ぜひ上記のリストを眺めながら、サニーブライアンとメジロブライトの対決や、ナリタブライアンとマヤノトップガンとサクラローレルの天皇賞・春を思い出して頂きたい。そして高知競馬場のレースに彼らの産駒た
ちが登場するという、競馬ならではの喜びを楽しんで頂けたら幸いである。

キャンペーンなど
ショートムービー「遠回りの春」
「ギャンブル等依存症対策啓発動画 ~一人で悩まず、家族で悩まず、まず!相談機関へ~」


JRAネット投票
SPAT4でしょ
オッズパーク
福ちゃんホームページ
電子出版ポータルサイト イー新聞
福ちゃん予想紙プリント販売
地方競馬ナイン
高知ケーブルテレビ


楽天競馬
中島競馬號
電子出版ポータルサイト イー新聞

たびりずむ 高知競馬観戦ツアー
一般財団法人Thoroughbred_Aftercare_and_Welfare