2002年の年末から2003年のここまでわずか2週間の間にも、高知競馬にはたくさんの出来事が起りました。悲喜こもごも、感動もあればやるせない想いをすることもあり、実況席にいる立場としても平静にはいられない状況が生まれましたね。
まず年末の第33回高知県知事賞。2400m戦としては当然だろうけれど、マッケンリーダーにとってはちょっと緩いペース。このペースなら早めに行こうと勝負所で敢然と動いたウォーターダグ。正に一番人気の重圧を微塵も感じさせぬ横綱相撲で完勝という印象でした。直線ではこのウォーターダグ、リンデンスワロー、マッケンリーダーに結果的に3着となるスマコバフレンド、内からエイシンドーサン、大外カコイサンデーと有力馬がどっと押し寄せる態勢となって迫力のある好レースになりました。
結果的にウォーターダグが抜け出して高知競馬史上に残る勝利(高知県知事賞を3勝、高知競馬重賞7勝は共に新記録)を収めたわけですが、そのウォーターダグ鞍上の西川敏弘騎手に「あの馬さえ交わせば勝てると思った」と言わせた3歳馬リンデンスワローは立派なレースをしました。当初から高知でデビューを予定した馬(ウォーターダグなどは中央未出走という形で高知デビューをした)、いわゆる生え抜きとしては高知県知事賞2着は恐らく最高の成績であり、しかも3歳時でのものは価値が高いでしょう。もうリンデンスワローの走る姿は見られないけれど(1月12日にレース中のアクシデントで競走中止、予後不良の診断を受けた)、この高知県知事賞の走りを忘れないで憶えておきましょう。
年始の南国王冠第30回高知市長賞も一番人気のコウエイエンジェルが強さを見せ付けたレースとなりました。勝負は先行争いの時点でついてしまったのかもしれません。内にいたマルサントウショウやカイヨウワールドが行く気を見せたのですが、敢えてこれを叩く格好でコウエイエンジェルが出るともうどの馬も競りかけずという展開になりました。決してぴたっと折り合っていたわけではないけれど、それでもコウエイエンジェルにとっては自らレースを作る形の方がいいという花本正三騎手の判断は的中します。
先行馬が突き放す展開のレースはどうしても2着争いがもつれます。今回はスマノガッサンを抑えてベアーズキャロルが2着となるわけですが、ここは前日の高知県知事賞を勝って勢いに乗る西川敏弘騎手の経験がモノをいう結果となったのかもしれませんね。やはり長距離戦は年に数度しか行われないという条件もあって鞍上の経験を注視する必要がありそうです。
さて1月4日は「北野真弘デー」となりました。
もう皆さんご存知の通り、この1月4日をもっていったん騎手免許を返上。今後は1年間、兵庫県競馬の西脇トレーニングセンターにある野田学厩舎に所属し厩務員として調教などに励み、来年1月の騎手再デビューを目指す事になります。
高知競馬所属として最後となったこの日。思いのたけをぶつけるかのように気迫に満ちた騎乗を見せた北野騎手は第6競走で自厩舎のエナジーフロウを勝利に導くと、9Rのアラブ系3歳・祝月特別でスマノリーダーに騎乗。前走の銀の鞍賞でスタートを失敗して「馬に惨めな思いをさせてしまった」反省を十二分に活かし、元気一杯のレースをさせて快勝させます。
そして迎えた最後の騎乗、ビッグミクニは北野騎手応援ムードを含んで2番人気に推されました。一番人気のナスノセンプーがじっくりと時間を掛けて先頭に立つと、必死に手綱をしごきながら北野騎手のビッグミクニが2番手となります。もうスタートから少しでも前にという鞍上の気迫が表に出ます。それは可能性の少ない馬であっても「勝てるポジション」に馬を出すことによってリーディングジョッキーを勝ち取ってきた北野真弘という騎手の真骨頂であって、その性格を知るもの全てが「これぞ北野だ」と納得する騎乗でした。
勝負所でナスノセンプーに並びかけていくビッグミクニ。後続からは中西達也騎手のブルーシームが迫ってきます。そして中団馬群からは内々を突いて西川敏弘騎手のビークレバーが徐々に先団目掛けて上昇していきました。
直線、スタートから道中もずっと叱咤激励を受けて気力溢れるレースを見せたビッグミクニが先頭に立ちます。外からブルーシーム、内からビークレバー。
まるで同世代の2人の騎手が「勝たせずに送り出すんだ!」と北野騎手との別れを惜しむように追いすがる姿に見えました。それでもこの日の北野真弘騎手にはただひたすら「勝つんだ、前に進むんだ」という迷いのない強い意志が感じられます。必死に、無我夢中に、他の事を考える事なく、ゴール板の先にある彼にだけ見える何かに向けて全身全霊をかけて馬を追い続けると、まるで「北野真弘」と一体になったかのごとく後続を振り切るビッグミクニ…。
夕陽の色に染まりながら繰り広げられた人馬一体の快走。それはまるで「勝つという解放」に向けて、あらゆる束縛から逃れていく、疲労や苦痛、悩みやしがらみ、賞金や賞賛、そして重力でさえも振り切って行く「自由への疾走」の瞬間だったように思います。
ファンへの挨拶で言葉を詰まらせながら、それでもしっかりと抱負と謝辞を述べた北野騎手。周りを囲んだたくさんのファンや関係者の目には涙が光っていましたが、あのリバーセキトバの黒船賞と共に大変記憶に残る送別のセレモニーになったことでしょう。「これからも高知競馬をよろしくお願いします」と結んだ彼にとって、全国的な大レースを制して喜ぶ姿を見せることこそがこれまでのファンに対する恩返しとなります。どうか1年間の時間を超えて大いなる飛躍を見せてください。
「頑張れ、マー君」!