高知競馬の平成16年度はどんな1年になるのだろう。
振り返って昨年の今の時期に予想できたファクターはあまりに少なかった。と思って、昨年度のゴールポスト通信を読み返してみるとやはり激動の1年だったことが分かる。こうして高知競馬が存続をしているものの、その過程はあまりに波乱万丈であり、更に予想できうる範囲を越えた出来事も起きている。
未来予想は難しい、だから競馬は面白いのだろうけれど…。
さて平成16年度の開催に先駆けて4月1日に馬頭観音の安全祈願祭と、馬場のお祓いが行われたときの事だ。
ちょうど桜が見頃を迎えた時であり、穏やかな晴天に恵まれて厳かに法事・神事が進んでいた。日本人は辛かった冬の終わりを祝うように、ちょっとした非日常感覚を持って花見を楽しむ。
そこで改めて気付いたのが馬頭観音にある石碑に刻んである年号だ。そこには天保九年の文字…。天保九年といえば西暦1838年、坂本龍馬が生まれて3年後だから、もちろん江戸時代である。
このことについての詳しい説明は、このサイトのスタッフ“馬場管”先生にお任せしようと思うが、「往来安全」といった文字も読み取れる事から移動手段が自動車ではなく馬であった頃、「交通安全祈願」の対象であったことが偲ばれる。すぐ横にある石製のお手水台もこの石碑と同じく天保年間のもので、たくさんの人々がお参りしていたのではないかと考えられるそうだ。
大事なのはこういった石碑があったということよりも、それが幾たびかの移転や機構変革を経ていながらもこうして現在の“高知競馬場に置いてあること”ではなかろうか。
倒幕・明治維新・富国強兵・馬券の発売中止と再開・戦争・競馬法の制定・車社会の到来・高知県競馬組合の成立・競馬場の移転・バブル期の好況・平成不況。こういった全ての出来事が、まるでうたかたの夢であったといわんばかりの存在感…。天保年間から人と馬の深い絆を見守ってきた馬頭観音の石碑と、それを必ず新しい場所・制度の中に移動させてきた人々の想い。
太く、暖かいそんな馬事文化の縦糸を感じる事が出来れば、たかだか10年単位で言う事をコロコロ変えてしまう人々の紡ぐ横糸など、時代の揺らぎに過ぎない。
1907年に小岩井農場が輸入した20頭もの基礎牝馬は、五冠馬シンザン、名ステイヤー・メジロマックイーン、日本ダービーを劇走したアイネスフウジン、短距離王・ニホンピロウイナー、そして凱旋門賞馬モンジューや英ダービー馬ハイライズを迎え撃ったあのスペシャルウィークを送り出して日本で本格的なサラブレッド生産をという先人達の夢を叶えた。
小岩井農場の“岩”は三菱財閥創始者・岩崎弥太郎の“岩”だ。
(最も小岩井の立ち上げに名前があるのはその弟の弥之助で、更にサラブレッド生産に関わる頃には、弥太郎の息子・久弥が当事者であるが)高知県出身の岩崎弥太郎は、明治維新後の日本という国家に大きな夢を抱いていた。
西洋の貴族の高尚な遊びであるサラブレッド生産を、国家の軍馬改良という後押しがあったにせよ、当時の日本で実現しようという試みは“見果てぬ夢”であっただろうが、前記したとおりの結果が日本の競馬史に残った。
その小岩井の、日本の競馬黎明期の歴史を引き継ぐべく頑張らねばならないのが岩手競馬である。
競馬事業の大きなポイントは装置産業である、という点だ。岩手県の人々にとっても、水沢競馬場とオーロパークがあって、そこで競馬事業を継続する事が財産を産むものなのだ。単純にそれを放棄してしまえばそこには何の役にも立たない廃墟と、投資と呼べなくなった債務が残るのみである。
経営改善、ふと立ち止まってみると途方もない難事業のように見えるが、とりあえず歩を進めるということ。そこには先人たちの足跡が、道案内をするかのように現れるかもしれない。
さて今年度の高知競馬の話に戻ろう。
まず“世代交代”というキーワード。サラブレッド系の古馬戦線はイブキライズアップという大将格が登場しながら、無念の戦線離脱で後半を棒に振った。当然ながら黒船賞に登場していればまた期待が高まっただろう。現在、運動は再開しており復帰間近という話だが、二十四万石賞は間に合わない。
上山から移籍して連勝を続けた古豪ベストライナーはよほど高知の水が合ったのだろうか、黒船賞でも地元最先着で気を吐いた。
一方でだるま夕日特別でベストライナーの2~3着と地力を見せたストロングボスやタフィラルトがキラリと光る。早くこういった馬がオープンクラスの常連となってくれれば楽しみが増す。
この日曜日の二十四万石賞は、ベストライナーが回避して混戦模様。馬場状態によっては波乱の結末も予想される面白いメンバーだ。
サラブレッド系の3歳戦にはハッピードラゴンという抜けた馬が現れた。中央2戦未勝利での移籍だが、ディクタスの肌にロイヤルタッチといういかにも瞬発力を秘めていそうな血統で、破壊力のある末脚が武器。移籍緒戦を向こう正面からの進出でまくりきると、2戦目は先行逃げ切りで連勝。次走の黒潮皐月賞は当然重い印が付く。440キロ弱という馬格だが、均整が取れて大きく見せる。馬体そのものは成長途上でまだまだ伸びしろがありそうだ。
アラブ系は年度最初の重賞競走・南国桜花賞がすでに終了。4歳のエスケープハッチが圧勝してダスティー以外のメンバーとは勝負付けを済ませたという内容を見せた。田中譲二調教師は福山・全日本アラブグランプリ、佐賀・アラブ大賞典への遠征経験がこの馬を強くしたと語っている。
ところが、エスケープハッチの強敵は意外な所から現れそうだ。
同じく西川敏弘騎手が主戦を勤める3歳馬のマルチジャガーである。
何が何でもこの時期の3歳馬では、という先入観を捨てさせるプラスアルファ、つまり相手なりに走ってしまうのでは?という大器だ。
もちろんマルチジャガーはマンペイ記念から南国優駿が目標になるだろうから直接対決はもう少し先の楽しみ。
さて高知競馬の「出来高制」が2年目を迎える。
1年目はいかにしてこの方式の厳しさを乗り越えて競馬事業を存続させるかという命題に、手探りで答えを見つけていったという印象。
2年目はどう習熟を見せるかという点に注目が集まる。ある程度の“戦い方”は分かった、ではどう運用に幅を持たせられるかといった部分だろう。
競馬の興行である以上、本来ならば中長期的な観点で経営を行うべきところが、このやり方ではどうしても短期的な視点が中心となってしまう。そのため昨年度はレース日程等で変更を余儀なくされた部分があった。お客様へのアナウンスの徹底という対応も含め改善すべきだ。あらゆる項目について言える事だが、関係者同士の調整がついたからOK、というものではない。あくまでもお客様へ説明をするという姿勢を見せなければならない。
第2に「10月リニューアル」だ。徳島県藍住町に設置を予定する「パルス藍住(仮称)」のオープンに合わせ、投票賭け式の整備を進める事が決定しているが、それだけに留まらず高知競馬そのもののCIとも言うべきリニューアルを行うべきだと考える。
投票賭け式については、場外発売分では本場で採用されている賭け式を高知競馬関連発売所でも対応すること。それから高知競馬開催においても今の3賭け式を5掛け式程度に増やす事が確認されている。パルス藍住の他にも四国内でオープンを目指す場外発売所が複数あることから、賭け式増加に対応できるスケールメリットが視野に入ったという状況なのだろう。
しかし、高知競馬が“四国競馬”へと進化していくためにはただ場外発売所を設置する、という考えではいけない。競馬という、他の公営競技とは一味違うエンターテイメントを深く味わってもらうために、今一度見直していかねばならない事が沢山ある。この半年間は経営を安定させ、少しでも良質の競馬をお届けするという目的を果たしつつ、なおかつ次の段階への歩みを進めなければならないのだ。シンプルに言えば“商品の競争力を高める”、この一言に尽きるだろう。
その他、頭数の減少するアラブ系競走の考え方や、2・3歳戦の振興といった課題。これまでの協賛競走からまた一歩進んだ企業タイアップ作戦といった新機軸。欧米・豪の競馬経営がこれから大いなるお手本となることだろう。平成16年度にこなさなければならない課題は数多い。
しかし、まず競馬を続けていくということ。
これが今や何よりも我々高知競馬の関係者にあって期待され、注目されていること。そう考えてまた1年頑張ろうではないか。