究極の一発勝負!~全日本新人王争覇戦

 3月20日、高知競馬春祭りは黒船賞G3だけではない。第20回を迎える全日本新人王争覇戦競走もまた、その歴史の1ページを加えることになる。

 地方競馬教養センターの卒業式で、晴れて騎手となる候補生達が「次は高知で逢おう」と声を掛け合って各地へ旅立つのは有名なエピソードだが、一昨年には中央競馬の騎手として初めて優勝した柴原央明騎手が「中央が勝っていないのは知っていたので何とかしたかった」と語るなど、タイトル通りに全国の新人騎手にとっての目標レースに成長してきた。

 この新人王戦の特徴は「究極の一発勝負」にある。通常、騎手の腕比べ戦は複数レースを戦いポイントで勝敗を決するパターンが多いのだが、この新人王戦は1レース。騎乗馬のクジ運もあるだろうし、枠順や展開によっても純粋な騎手の技量だけではないファクターが勝敗の明暗を分けることも多い。しかし毎年このレースを見るたびに、その一発勝負こそがこのレースの面白みを増しているように感じられる。何しろ出場機会は1度きり。プロとしての人生が始まったばかりの新人には、この晴れの舞台に選ばれた面映ゆさと、そしてポイントの計算など一切ない、“1着を目指すのみ”という闘志が良く似合う。ゲートが開くとほとんど全馬の鞍上が必死に手綱をしごいて先行争いに加わってゆく。先輩・後輩や、そこまでの成績の優劣などはどこかに消え去り、ただただ無心に“誰よりも先にゴールしたい”という気持ちだけが残る。そんな12名・12頭が駆けてゆく姿には、競馬というスポーツの原点さえ見えるだろう。

 さて今年の“新人王候補”はどんなメンバーなのだろうか?その成績を紹介しよう。(注・成績は06年3月14日現在、年齢は06年3月20日当日のもの)

地区名 騎手名  初騎乗  年齢
通算成績     連対率

岩手  高松 亮 04年4月 19歳
711戦 28勝 .096
川崎  町田直希 05年4月 18歳
434戦 36勝 .189
金沢  松戸政也 04年4月 19歳
566戦 35勝 .133
笠松  阪上忠匡 03年4月 22歳
768戦 49勝 .160
名古屋 山本 茜 05年10月 22歳
263戦 30勝 .236 
兵庫  小谷周平 03年4月 20歳
825戦 48勝 .125
高知  別府真衣 05年10月 18歳
224戦 29勝 .228
高知  森井美香 05年10月 21歳
166戦  4勝 .072
佐賀  南谷圭哉 04年5月 19歳
362戦 23勝 .160
荒尾  田中 純 03年4月 20歳
837戦120勝 .280

JRA
美浦  津村明秀 04年3月 20歳
947戦 48勝 .118
栗東  藤岡佑介 04年3月 20歳
1314戦111勝 .149
    
 
 すでに通算勝ち星が100勝を越えている騎手が2人。またデビューからまだ日が浅いのに驚異的な勝ち鞍を挙げている女性騎手もいる。今年も注目に値する優秀な新人騎手が集結しているのが見て取れる。

 中でも最高の数字を残すのが荒尾・田中純騎手。120勝という勝ち鞍だけでなく勝率、連対率の高さも目を惹く。勝率は14.3%で連対率も28%に上る。文句無しの“三冠王”だ。過去に2度優勝がある荒尾勢の3勝目なるか。
 
 勝ち鞍2位の藤岡佑介騎手は中央競馬所属としては破格の111勝。昨年はアズマサンダースで京都牝馬Sを制し重賞初制覇。最多勝利新人騎手として04年JRA賞に輝いている。今年すでに東西リーディングの10位内にランクされており更なる飛躍が期待される。美浦所属の津村明秀騎手も勝ち鞍の数もさることながら、騎乗数の多さに期待の高さが現れていると言えよう。

 川崎の町田直希騎手は2005年のNARグランプリ優秀新人騎手。昨年4月のデビューだからまだ1年に満たない。この時期に、川崎という激戦区でこれだけの成績を残しているのは立派である。

 さてもうひとつの注目が3人の女性騎手。過去にまだ女性の優勝がない新人王だが、初めてとなる3騎手の参戦で“新人女王”の誕生を狙う。ちなみに押しも押されぬ女性トップジョッキー、名古屋の宮下瞳騎手は97年の第12回に登場して堂々の2位に。この時は3位にも福山・大場徳子騎手(名前は当時)が入って女性騎手旋風を巻き起こしている。宮下瞳騎手の名古屋の後輩、山本茜騎手は昨年10月のデビューで早くも30勝に到達。これはまた素晴らしい新人が現れたものだが、どっこい高知の別府真衣騎手もすでに29勝をマーク。勝率では別府騎手が上回っており、互いに同期で仲が良い事もあってライバル対決に燃えている。意外性のある森井美香騎手の反撃も含め、この3人の女性騎手が話題でも実力でも主役に踊り出るか?

 ちなみに新人王争覇戦、過去の地区別優勝回数一覧がこちらである。

北海道 5勝
松井孝仁、藤川直人、山田和久、渋谷裕喜、伊藤千尋
兵庫  3勝
藤川洋一郎、清水貴行、西川進也
荒尾  2勝
後藤孝鎮、矢野猛
名古屋 1勝
安部幸夫
川崎  1勝
岡村裕基
高知  1勝
西内忍
福山  1勝
久保河内健
岩手  1勝
村上忍
浦和  1勝
木村龍二
佐賀  1勝
下條知之
新潟  1勝
熊木良介
JRA 1勝
柴原央明

 今回は兵庫の小谷周平騎手が勝つと北海道勢に迫る4勝目。荒尾の田中純騎手だと2位タイとなる3勝目。岩手の高松亮騎手、川崎の町田直希騎手、名古屋の山本茜騎手、高知の別府真衣・森井美香両騎手、佐賀の南谷圭哉騎手が勝てば2勝目。JRAの藤岡佑介騎手が勝つと栗東が2勝目で、津村秀明騎手の場合は中央2勝目で美浦の初勝利。金沢の松戸政也騎手と笠松の阪上忠匡騎手が勝てばそれぞれ初優勝となる。

 なお、馬券の配当はいつも波乱となる新人王戦。よほどの軸馬がいれば別だが、鞍上が変わりペースや展開が変わることから必然的に人気通りの決着になりにくいのだろう。実際の配当はというと馬複発売後の7年間がこちら、

第13回 馬複 5-8 21530円
第14回 馬複 11-12   740円
第15回 馬複 7-12 22930円
第16回 馬複 3-6   420円 
第17回 馬複 2-3  9050円
第18回 馬複 1-5  4460円
     馬単 5-1 10600円
第19回 馬複 3-6  7250円
     馬単 3-6 11250円  
   (三連単 3-6-4 67380円)

と、7度中5回は波乱で、しかもかなりの高配当となっている。昨年初めて三連単の発売がある新人王ではいきなり6万7千円台が出ており、今年も波乱は必至かと思わせるデータだ。

 さあ、高知は例年よりも早く、そして全国に先駆けて桜(ソメイヨシノ)が開花した。恐らく20日には5分咲きとなった桜が高知競馬場を彩り、若き騎手達の熱き戦いの場を盛り上げてくれるだろう。一生に一度、そうわずか一回きりのチャンス。“新人王”の名誉はどの騎手の頭上に輝くのだろうか。

追記

 黒船賞に出走する事になったマイネルスタードについて紹介する。

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マイネルスタード 騎乗予定騎手 中越豊光 

牡 黒鹿毛
父 ブライアンズタイム
母 マイネアリーナ
母父 カツラギエース
母母 レツドコスモス
調教師 田中守(高知)
生年月日 1999年5月3日
生産牧場 ビツグレツドフアーム

通算成績42戦3勝
主な勝ち鞍 04三条特別(JRA新潟)
2歳 JRAで6月にデビュー。6戦目の芝千八で初勝利。
3歳 500万下の芝千八特別戦を3着するもこの年は勝てず
4歳 芝二千で2勝目、その後は2連続3着と好走見せる
5歳 ダート戦へ向かい浦和の交流戦で2着、D千八の三条特別を勝つ
6歳 ダート、芝で7戦して3着まで
7歳 高知に転入、A2からA選抜で3連続2着となる

 兵庫シャワーパーティーが回避してマイネルスタードが補欠から繰り上がり出走することになった。中央では当初芝を使われて中距離を2勝。ダート戦でも変わらず力を発揮して3勝目を挙げる辺りがブライアンズタイム産駒らしいところだ。勝ち星はいずれも好位から抜け出す競馬でセンスの良さを見せているが、いずれも千八以上の距離であり、千四となると追走がカギとなりそう。
実際高知のA級選抜では後方の位置取りとなったが、中越豊光騎手がうまくインコースを突いて差を詰める巧騎乗を見せ、連続2着に導いた。深い馬場も苦にせず決め手を発揮したそのA級選抜のレース振りを見れば、本番でも先行勢が崩れる乱戦でこそ台頭がありそうだ。母系はフロリースカップのヒンドバース分岐だから、あのマイネルガーベらを出した一族。

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