真夏の短距離王はストロングボス!

 8月8日に高知競馬、真夏の短距離決戦と呼ばれる建依別賞が行われ、ストロングボス(牡6歳 打越初男厩舎)が第27代の王者に輝いた。今年の建依別賞は牝馬、3歳馬の挑戦がなく全馬が57キロを背負う力と力の激突。馬場状態は直前の第9レース辺りに降り始めた雨のため「重」となってゲートインを迎えた。

 レースはストロングボスの先行でスタートし、ロードブレーブとマイサクセスが好位集団に付けると、ジョイフライト・イズミカツリュウ・スマコバフレンドらが続き、中団にはキング・アサヒミネルバ、後方からウォーターダグ・バンブーヒカリオー、更にタケルとマルタカハゴロモという隊列で第1コーナーへ。前半の2ハロンを23秒9というラップで通過する。
 この春の黒船賞(不良馬場)におけるディバインシルバーの2ハロン通過が23秒3であったから馬場差を考えれば比較しても決して遅くないペースであったが、それでも先行するストロングボスはハミを取って若干掛かり気味。宮川実騎手が振り返るに「馬とケンカするわけにもいかないから、ある程度放して行きました」という事だから、すぐ後ろをマークして進むマイサクセスからの圧力を馬も感じていたのだろうか。

 そのマイサクセスは完全に相手をストロングボス1頭に絞った作戦だった。ストロングボス、あるいは今回出走しなかったイブキライズアップと同年齢の6歳馬。佐賀でデビューから5連勝、無敗で九州ダービー栄城賞を制した戦績が光る。高知移籍が今年の6月だが、いきなりA2のマイル戦を休み明けながら差し切って存在感を示すと、前走のA級選抜ではイブキライズアップの4着だが、今回の建依別賞では連勝式での対抗人気に推されていた。昨年5歳時の吉野ヶ里記念(サマーチャンピオンG3の九州地区ステップ競走に相当する)で4着しているが、戦績としては1400mに良績が集中している感じで、実はその昨年の吉野ヶ里記念と今回の建依別賞の走破時計がピタリと同じ。今回は2番手の内から3コーナーで早めに出し抜けを狙ったが、最後は直線の競り合いで遅れを取ったが力は十分に見せた内容だった。

 単勝2番人気のウォーターダグは重賞8勝という記録の更新と、すでに制している二十四万石賞・珊瑚冠賞・高知県知事賞のタイトルに建依別賞を加えて地元古馬重賞の完全制覇を目指したが、結果的に前2頭で決まる展開では辛い。出走メンバー最速の上がり時計を記録したものの6着に終わった。馬場が湿ってしまった事も不利だったが、ここは鬼門と割り切ってこの内容を秋以降の活躍に繋げたい。

 三連単が間に合っていたら…、と思わせたのが3着に健闘したイズミカツリュウ。高崎皐月賞や金沢・スプリングカップの勝ち馬だから実績は申し分ないものの、前走のA級選抜が7着と高知のオープンクラスでは結果が出ていなかった。今回8番人気だったから、三連単が導入されていたら結構な配当になっただろう。ちなみに高知競馬で三連単が発売開始になるのは来月、9月25日である。

 さてストロングボスの話に戻ろう。

 ストロングボスは1998年アメリカ生まれ。建依別賞での馬体重が539キロだからかなりの大型馬だ。逆にそれだけ大きかったから仕上がるに手間取ったと言えるかもしれない。事実、競走年齢に達した2歳時には出走できず、デビューは3歳の8月までずれこんだ。以下、競走成績を簡単に記そう。

01年8月 大井競馬場  
3歳戦  1200m   1着

(1年9ヶ月休養)

03年5月 高知競馬場
FG混合  1300m   1着
03年5月 高知競馬場
E3    1300m   1着
03年6月 高知競馬場
E1    1400m   1着
03年6月 高知競馬場
DE混合  1300m   1着
03年8月 高知競馬場
D1特別  1400m   1着
03年8月 高知競馬場
D1特別  1400m   1着
03年9月 高知競馬場
CD混合  1400m   1着

03年10月 高知競馬場
C3    1400m   1着
03年10月 高知競馬場
E1    1400m   1着
03年11月 高知競馬場
D5    1300m   1着
03年11月 高知競馬場
D2    1400m   1着
03年12月 高知競馬場
D1特別  1400m   1着
03年12月 高知競馬場
D1特別  1400m   3着

04年1月 高知競馬場
CD混合  1400m   1着
04年2月 高知競馬場
OP準重賞 1400m   2着
04年2月 高知競馬場
C1特別  1400m   1着
04年3月 高知競馬場
C1特別  1400m   1着
04年3月 高知競馬場
B級交流  1400m   4着

04年4月 高知競馬場
B級選抜  1600m   1着
04年4月 高知競馬場
B級選抜  1600m   1着
04年5月 高知競馬場
OP準重賞 1600m   1着
04年5月 高知競馬場
A級選抜  1600m   1着
04年6月 高知競馬場
OP準重賞 1400m   1着
04年7月 高知競馬場
A級選抜  1600m   2着
04年8月 高知競馬場
建依別賞  1400m   1着

 通算27戦23勝2着2回 

 こうして成績を挙げてみると、ストロングボスの競走生活には3度の挫折を見て取る事が出来る。一度目はようやく迎えた大井でのデビュー戦(2着に8馬身差を付ける圧勝)の後、脚部不安で1年9ヶ月もの休養を余儀なくされた時だ。大型馬でスピードがあって跳びも大きい。そうなると脚部へ掛かる負担も半端ではない。前脚がモヤモヤするといったタイプの脚部不安は、時間を掛けて良化してもまた調教を始めると再発する事が多い。能力のある大型馬につきもののやっかいな故障だ。高知競馬にはこういった馬を再生させる技術を持ったプロが多く、ストロングボスにとっては打越初男厩舎への移籍が幸運を呼んだ。結果的に5歳の5月まで1戦しかしていないため馬の肉体は若く、更に伸びしろを期待できる状態で高知に転入した。高知ではまず下級条件で連勝を続け、素質の確かさを証明する。
 
 2度目の挫折はデビュー以来の連勝が止まった昨年大晦日のレースである。そこまで破竹の進撃で無敗の13連勝を達成していたとはいえ、下級条件を相手に意外と接戦が多かったのである。大井でのデビュー戦こそ8馬身差、1秒6もの差を付けて勝っていたが、高知での12連勝は2着とタイム差なしが3度、コンマ1秒差が2度ある。いずれも先行策からいったん並ばれて突き放すという勝ち方で、競り合いに強い長所とも取れるが、一方でどことなく物足りなさを感じたものだ。これは脚部不安から強く追い切れない弱みが出たものと考えられるが、逆にそれでも負けなかったとも言える。
それでもこのレース振りなら当然他の陣営が考える作戦は決まってくる。ゴール板に合わせて並ぶ間もなく一気に交わせばいい。そしてそれを実行したのが連勝を止めたシャコーグロリアの鞍上、中越豊光騎手だった。後にベストライナーが、更にイブキライズアップがストロングボスを破った時、いずれも同じように直線半ばで一気に交わすという戦法を見せている。

 しかしこういった敗戦を糧に出来るのが上がり馬たる所以である。
ストロングボスは敗戦後に必ず成長を見せてきた。3度目の挫折とも言えるJRA条件交流・はりまや盃での敗戦もまた、成長するためのステップになった。初めて交流戦のハイペースに巻き込まれてとまどった感のある4着の後、あきらかに馬が素軽さを身に付けたのだ。レースを使いながら徐々に仕上がり具合を高めた部分、そして打越初男調教師が言う「今の馬体重を保ちながら全体を競走用の筋肉に変えていきたい」という調教目標がある程度出来てきた、という部分もあるだろう。しかし4月のB級選抜を経て5月にオープンクラスへ上がる頃には別馬のような反応を見せるストロングボスがいた。当初は大型馬がいかにも馬体を持て余しているようなモッサリした感じが拭えなかったが、復帰戦のイブキライズアップを迎え撃った5月16日の四万十特別では、勝負所で弾むようなフットワークの加速を披露したのだ。元々先行力、パワー、スピードの持続力に加え勝負根性に優れていたのだから、ここに反応の良い素軽さが加われば鬼に金棒である。ようやくこの馬が本来持っていた素質というものが全貌を現してきたのかもしれない。

 宮川実騎手のコメントによると建依別賞ではやや夏負けの気配があったようで、5・6月に2つの準重賞を勝った当時を100とすればちょっと調子は落ちていたそうだ。マイサクセスの徹底マーク戦法にも圧力は感じたものの、内から並ばれながら最後は差し返してなお突き放したのだから「収穫の多いレースでした」というのも納得できる。恐らく脚元には有形無形の不安を抱えたままでの調整が続くのだろうが、「大事に成長させて行きたい」との言葉通り、ストロングボスがどこまで大きな器を持っているのかを我々に見せてもらいたいものだ。

 最後にストロングボスの血統について。

 父のCapote(カポーティ)は米三冠馬シアトルスルーの産駒。デビュー2戦目から3連勝でブリーダーズカップ・ジュヴェナイル(G1)を制し全米2歳チャンピオンに輝いた。しかしケンタッキーダービーでは競走を中止するなど不運もあって3歳時に勝ち星はなく、結局そのまま引退。種牡馬としてはBCジュヴェナイル父子制覇となったボストンハーバーを出すなど成功。仕上がりが早く、ダート・芝双方でスピード豊かな産駒を多数送り出している。
ただしどちらかと言えば産駒には早熟タイプが多い印象がある。
 
 母のSpring Valleyも父が米三冠馬のアファームドで、祖父がいずれも米三冠馬という組み合わせになっている。母の父としてのアファームドは大変優秀で、日本ではスティンガー、ナリタトップロード、メイショウドトウという3頭のG1馬など活躍馬を多数送る。アファームド自体がフェアプレー、テディ、ピーターパンなど優秀なアメリカ血脈を豊富に含んでいる為、種牡馬の能力を引き出しやすいという理由が考えられる。更にストロングボスの場合は祖母の父にリボー系のホイストザフラッグを持っており、父の弱点である成長力や底力といったものを母系で補っている。これならレースをそれほど使っていない点も合わせ、今後もまだまだ伸びしろが残っていそうだ。

 ちなみに2002年生まれの弟は父が Cozzene(コジーン)。
今年4月、キーンランド2歳トレーニングセールにおいて「フサイチ」の冠号で知られる関口房朗氏が20万$で落札、JRAでデビューする予定だという。グレードレースにおいて4つ違いの兄弟対決!なんていう夢のような話が実現すると楽しいのだが…。

 追伸 イブキライズアップは前走の直線、ストロングボスを交わしたところで左前の歩様が乱れ、レース後の診断で10日間程度の安静が必要とされたそうだ。9月後半の高知競馬リニューアルオープン後の復帰を目指して調整中と聞いている。

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