11月28日(日)は高知競馬の珊瑚冠賞、そして福山競馬の全日本アラブグランプリから目が離せない。
前者は高知競馬のサラ系トップクラスが集う重賞競走だが、TR足摺特別の覇者ナイキアフリートと建依別賞馬のストロングボス、そして重賞初制覇を目指すイブキライズアップの3頭がついに直接対決を迎える事で、今年度のこれまでの重賞の中でも注目度の非常に高い一戦となろう。有力馬の紹介を中心に、レースを展望してみよう。
ナイキアフリート(田中譲二厩舎)は名門・千代田牧場生産の8歳牡馬。中央競馬でデビューして29戦6勝という成績の後、南関東OPクラスを走って03年フロンティアスプリント盃4着などの成績を残し、今年10月に高知競馬に転入した。
中央でのデビュー当初は、半兄がクリスタルC(G3)勝ちのコクトジュリアンということもあってか芝の短距離を使われたが2・5・3着と勝ちきれず、間隔を開けて臨んだ4戦目にダートを選んだとたんすっきり快勝。その後はダート短距離のみを使われて準オープンのブラッドストーンSまでを6勝。オープンでは勝ち星こそないものの、02年ガーネットS(G3)ではブロードアピール、サウスヴィグラス、ワシントンカラー、ゴールドティアラといった強豪メンバーの中で16頭中の6着。このレースではビーマイナカヤマに先着している。
03年からは大井に主戦場を移し、ここでも重賞競走でなかなかの活躍を見せているが、ハイライトは転入3戦目のフロンティアスプリント盃。ハタノアドニス、ラヴァリーフリッグという1~2着馬には差を付けられたものの、11番人気という低評価に反発するかのように3着にハナ差の4着入線。その後も勝てないながら好走を見せてこの夏まで南関東で活躍した。
高知転入緒戦はB2という好条件。実績から当然のように1番人気に推されたが、その勝ち方がインパクトのあるもの。2着のアンダーレインボー以下に9馬身差を付ける圧勝で、タイムも1600m戦を1分45秒5だから、すでにオープンクラスのもの。
そして格上挑戦で出走した珊瑚冠賞トライアル・足摺特別では、道中馬群のポケットに入るような不利がありながら、3~4コーナーで内々をぐいぐい進出して、2着レッドシャトー、3着イブキライズアップらを差し切り快勝。その内容からも重い印を背負う一頭となるのは間違いなさそうだ。
田中譲二調教師は「初戦の時に折り合いが付くのが分かって、一介の短距離馬じゃないと思った。距離は持つだろうし、脚元も全然問題ないから楽しみだよ」と今後への並々ならぬ期待を口にする。
年齢的に大きな上積みとはいかないだろうが、過去にもマッケンリーダー(残念ながら先日のレースを最後に引退)が移籍3戦目に珊瑚冠賞を制しているように、この勢いをそのまま本番に持ち込みたいところ。スピードの絶対値が高く脚質にも幅がある。
血統的には先述のコクトジュリアン(父マキャベリアン)の他に、京阪杯(G3)勝ちのブラボーグリーン(父タイトスポット)も兄にあたり、なかなか優秀な繁殖牝馬を母に持つといえる。曾祖母のワールドハヤブサからは3代下ってニッポーテイオー・タレンティドガール兄妹というG1馬が出ていて、千代田牧場のビューチフルドリーマー系から出た活気のあるファミリーを形成している。
父アフリートはBCスプリントでガルチの3着などビッグタイトルは取れなかったが、なんといっても日本での産駒成績が立派。牝馬では芝のクラシック馬プリモディーネ、オークス2着のゴールデンジャック、ダート戦線で息の長い活躍をしたプリエミネンスらを送り、牡馬ならダート短距離でスターリングローズを筆頭にイシヤクマッハやナリタインザターフらのグレード勝馬を出している。ミスタープロスペクター直仔の種牡馬はフォーティナイナーのような大物から、ジェイドロバリーやリズムのような良血馬、スマコバクリークのようなお手頃系まで様々なタイプが輸入されてきたが、このアフリートは本当にバランスが取れていて、重宝されるタイプの種牡馬である。母の父ブレイヴェストローマンとボトムラインの構成なら、それほど距離の壁は心配しなくていいだろう。高知での2戦を見る限りスローペースにも対応が可能だ。逆に消耗戦となった場合は距離延長が弱点となるかもしれない。
建依別賞馬ストロングボス(打越初男厩舎)は南部杯(G1)からの復帰レースを勝利で飾り、珊瑚冠賞で二つ目の重賞制覇を狙う。
宮川実騎手によると、ここまでで一番好調だったのは5月~6月のオープンクラス3連勝(準重賞2R含む)の頃とのこと。あの重戦車タイプの馬が非常に素軽く見えたから、あの走りを再現できるかどうかが今回の強敵相手のポイントとなろう。
南部杯ではゲートも抜群の好反応。スタート直後の追走は楽な手応えで、むしろ掛かっているようにも見えて頼もしかったが、ユートピアが押し切る展開からもややスローペースだったようだ。10着はいたしかたないが、負けて強くなるタイプだから一層の成長が期待される。ただ復帰戦は快勝だったが、終いは走るフォームがやや精彩を欠いていたから、その辺りに疲労の不安が残る。
珊瑚冠賞では展開のカギも握る存在。地元での過去の敗戦は溜め逃げのペースがかえって相手を利し一気に来られるパターンがあるから、単純にスローなら良いというものでもない。素材は一級品だけに体調十分なら1900mを地力で押し切ることも可能な馬。そんな馬はなかなかいないから是非そんなレースを見せて欲しいものだ。初夏の状態にどこまで戻っているか、それを見極めたい。
高知ナンバーワンの名を欲しいままにしながらここまで無冠。イブキライズアップ(宮路洋一厩舎)がついに地元の重賞に初登場だ。
昨年の前半は完全に高知の一枚看板となりながら、サマーチャンピオン(G3)遠征を挟んで後半は故障に泣き、珊瑚冠賞・高知県知事賞・黒船賞・二十四万石賞と出走できず、更に今夏は休み明けに連敗したストロングボスに雪辱を果たしたレースでまたも軽い脚部不安を発症して建依別賞を回避…。陣営はこの秋、足摺特別-珊瑚冠賞-高知県知事賞の3走だけというローテーションを早々と決定。
念願の重賞勝利へ向かう道のりとしたい考えだ。
足摺特別はスローペースの3番手を悠々と追走。4角では先頭に立ってさあここから突き放そうというところでもうひとつ伸びを欠き、僅差ではあるがナイキアフリート、レッドシャトーに交わされて3着という屈辱を味わった。花本正三騎手は「絶好の展開だし、あれで伸びない理由が分からない」と話した後、首を傾げながらこう付け加えた。「すぐ後ろからレッドシャトーに徹底マークされたのが気になったのかなあ」。
大跳びの馬というのはスローから急に追い比べになると不利な面がある。元々抜け出すとソラを使う(気を抜く)タイプと聞いているし、この馬がストロングボスを差し切ったレースがいずれも中団から早め好位に上がってライバルに狙いを定めて、という戦法だっただけに、足摺特別の展開はイブキライズアップの持ち味が出ないものだったのかもしれない。ハイペースを中団からというのが理想か。いずれにせよ、闘争心に点火できるかがポイントになりそうだ。
足摺特別でそのイブキライズアップを交わして2着となったレッドシャトー(雑賀秀介厩舎)はこの夏上昇気流に乗った5歳牡馬。
中央競馬では旭川での交流戦や障害戦まで挑戦するも未勝利に終わった。
新天地は景色がどこまでも美しい山形県のかみのやま競馬場だった。ここでC級から再スタートを切ったレッドシャトーは破竹の快進撃で6連勝をマーク。どこまで連勝が伸びるのかという期待の膨らんだ矢先にかみのやま競馬が無念の廃止決定。こんどは進路を南に向けて高知競馬場への移籍となった。
高知での初戦は連勝を伸ばせるか、というレースだが、ここに立ちふさがったのがなんとストロングボス。D級の百舌鳥特別をストロングボスの3着に敗れて連勝ストップ。ただしこの馬は血統的にも晩成タイプで、まだまだ伸びる余地を残していた。その後は勝ったり負けたりしながらB級昇格。いったんここで頭打ちのような不調に陥るも、格慣れしてくると再び結果を出して見せ、JRA条件交流・桂浜盃で中央馬のハナを叩いて先行策から4着に粘るなど、成長を証明。夏場にはB級選抜からA2までを4連勝。ついに昇格したオープンクラスで連続2着となって、今回ついに初の重賞競走出走を果たす。
父ホークスターはサンデーサイレンスの同期として米三冠戦を走り、なんと全て5着という珍記録をマーク。古馬になって芝に転向してから一流馬となり、オークツリー招待ハンデで当時の芝12ハロンの世界レコードを樹立した。この辺りはホーリックスがオグリキャップを抑えたジャパンカップに出走していたので良くご存知の方も多いだろう。ホークスターのようなタイプはレース経験を積む事で身も心もアスリートに変身できる。レッドシャトーの場合は母系にカブラヤオー、ダイコーター、マームードなど渋い血脈が並んでいるから、より一層晩成タイプとなる可能性がある。5歳だが、本当に良くなるのはこれからかも知れない。距離伸長も望む所だ。
他にも重賞8勝のウォーターダグや実績のあるハイフレンドピュア、A選抜勝ちがあるトーヨーペクターらも出走してくる珊瑚冠賞。
今年度、ここまでで最も熱いメンバーが揃っていよいよ28日にゲートインを迎える。
さて、「今年度の最も驚くべきレース」と言われれば筆者は一もニもなく10月31日の金木犀特別を挙げる。まだ3歳のマルチジャガーが初の古馬オープンクラスとの対戦を大差で千切ったあの一戦だ。2秒差を付けられた2着にダスティー。ダスティーといえば南国王冠高知市長賞で2着以下を2秒2置き去りにした馬。更に3月の佐賀・西日本アラブ大賞典で4着、8月の金沢・アラブグランプリで6着と、全国区を相手にしても健闘している古豪。
金木犀特別のマルチジャガーはまったくのマイペース、というか無人の荒野を独り行くといった風情の走りを見せた。中団辺りからもう持っていられないので上がっていったら一気に先頭まで行ってしまって、更にどんどん差が開いてしまいました、という感じだ。
どうにも捉えどころがない、というのがここまでのマルチジャガーの戦歴だった。強いのは分かるが、例えば先行タイプでもなく差しタイプでもなく、追って味があるようにも見えない。しかし出遅れ気味のスタートから勝手に捲って行って圧勝した銀の鞍賞や、あっさり先行策で南国優駿馬ロックハートを問題にしなかった荒鷲賞を含め、高知地元のレースに限って言えば19連勝中。もう1年1ヶ月ほど負けていない。かと思えば、福山に遠征した瀬戸内賞では前半好位を抜群の手応えで追走し、西川敏弘騎手も「楽勝の手応えだった」と振り返っているのに、勝負所で内にささってまったく追えなくなってしまっての敗戦(4着)を経験している。
高知でも以前はささり癖を見せていたのだが、全日本アラブグランプリでやっぱり気になるのがそういった「捉えどころのない」部分ではなかろうか。強敵相手にマルチジャガーの本来の姿が見られるのか?
松木啓助調教師は瀬戸内賞での敗戦を、調教過程のアヤと振り返る。「ちょうど夏バテが来たんだね。それを西川騎手から聞いて、輸送もあるし無理できないと…。そこで予定ほど強い攻め馬ができなかったのが勝負所で響いたかもしれない」。
しかしこの秋は体調も上昇して、これまでにないほどの好調だという。「体も随分締まってきたし、今度は恥ずかしい競馬はしないだろう。瀬戸内賞の時とは違うよ」。
マルチジャガーは高知で2頭の南国優駿馬(チーチーキング、コスモユーメー)を出したナイスフレンドの産駒。5歳上の半兄に新潟アラブ優駿勝ち、東北アラブダービー2着というストロングゲイル(父ホマレブルショワ)、半妹に荒尾ヤングチャンピオン勝ちのスーパーコスモス(父ホーエイヒロボーイ)と活躍馬がいる。
今回は相手関係というよりは、自らの力量をきちんと発揮できるかどうかが一番のポイントだろう。これまで高知所属馬としてはイチヤ、チーチーキングの3着が最高という全日本アラブグランプリ(旧西日本アラブダービー)でどこまでやれるか。
11月28日、珊瑚冠賞が行われる高知競馬場(パルス場外)では、福山・全日本アラブグランプリも併売される。サラブレッドの注目の重賞と、アラブ3歳の怪物の活躍、楽しみの尽きないこの注目の一日に期待しよう。