混戦!真夏の短距離決戦・建依別賞

 高知競馬の真夏の短距離決戦と言えば「農林水産大臣賞典・建依別賞」。
今年で29回目を数える伝統の1戦である。旧競馬場時代の1978年に始まって当初はサラブレッド系とアラブ系を隔年で行う珍しい重賞だったが、1986年以降はサラブレッド系の1400mという条件に固定された。名称の「建依別(たけよりわけ)」とは古事記の国生みのエピソードで、現在の四国4県にあたる土地をそれぞれ

愛媛(伊予)を愛比売(えひめ)
香川(讃岐)を飯依比古(いいよりひこ)
徳島(阿波)を大宜都比売(おおげつひめ)
高知(土佐)を建依別(たけよりわけ)

と記述してあることにちなむ。すぐに気付くのは愛媛はそのまま県名に使っている点と、愛媛・徳島が女性名、香川・高知は男性名になっている点だ。建依別とは勇壮な男性を表すそうで、そういえば建依別賞はまだ牝馬が制していないなと思い出す。夏の陽射しに照り付けられたダートはいかにもパワーを要す感があり、イージースマイル(今でいうと3歳だった!)の惜しい2着はあるものの、29回全て牡馬が勝ってきた。(ちなみに冬の大一番である高知県知事賞は牝馬が2度制している。ミスピノキオとミョウエイアリー)

 さてこの時期の日本のイベントというのは全てがある共通項を背負っている。
五感を刺激するその共通項とは、全てを投げ出したくなるような灼熱の気候、空間を覆い尽くすようなセミの鳴き声、カラカラと涼感を誘う氷の音、甲子園球場から響くサイレンの無常感、盆を迎えて鼻の奥に甦る線香の香り、見たわけではないのに脳裏に浮かぶ終戦の風景…といったものだ。花火大会や、高知であればよさこい祭りに関わるものも加わって音、色彩、匂い、手触り、味覚の全てが「夏」を認識し、その背景をセットにして記憶が形成される。
建依別賞もまた30年近くに渡り“真夏の短距離決戦”として歴史を刻んできた。単なる重賞競走というだけでない、五感に響く熱戦の記憶が多いのは「この時期」であるということ無関係ではなかろう。

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 それではここで筆者が実況をさせてもらうようになった1994年から昨年まで、過去12年間の建依別賞、その熱戦をプレイバックしてみよう。

☆1994年 馬場・良
1着キャロットスキー
(2着サクラアラシオー) 
 中央では芝・ダートで4勝をマークしていたキャロットスキー。高知では下級条件から破竹の快進撃で昇級すると、サクラアラシオーとの息詰まる競り合いをハナ差制して初重賞勝利。鞍上は新鋭・四宮幸志騎手(引退)だった。

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☆1995年 馬場・良
1着レインボーギンザ
(2着ハギノミリオネール)
 船橋デビューで、後に中央へ移籍して準オープンまで勝ったレインボーギンザ。徳留康豊騎手(現・金沢)のステッキに応えて底力を見せる。その後、珊瑚冠賞と高知県知事賞でも2着し、長距離でも強い所を証明した。

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☆1996年 馬場・良
1着クロスオーシャン
(2着ダイジュマル)
 7番人気の低評価を覆して勝ったのは米国産のクロスオーシャン。花本正三騎手の騎乗。中央でのダート短距離4勝の実績は伊達ではなかった。これが建依別賞で初めての外国産馬による優勝。その後の流れのさきがけとなった。

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☆1997年 馬場・稍重
1着スーパープレイ
(2着イージースマイル)
 中央で札幌記念を勝っていた重賞ウイナー。イージースマイルとラガーチャンピオンの競り合いを外から鮮やかに差し切っての快勝だった。花本正三騎手が2年連続の制覇。スーパープレイは珊瑚冠賞も勝って(倉兼育康騎手騎乗)この年、重賞2勝としている。

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☆1998年 馬場・良
1着マルカイッキュウ
(2着リバーセキトバ)
 前年度の高知県知事賞をレコード勝ちなど最強と呼ばれながらも1400mの重賞だけを勝てなかったマルカイッキュウがついに手にした勲章。まったく危なげないレースぶりで、黒船賞を制したリバーセキトバを寄せ付けなかった。鷹野宏史騎手、会心の勝利。

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☆1999年 馬場・不良
1着ブリッジテイオー
(2着メイショウタイカン)
 黒船賞4着など、いいレースをしながらなかなかタイトルに手が届かなかったブリッジテイオーが、11度目の挑戦でやっと果たした重賞制覇。得意の不良馬場、西川敏弘騎手の激しい叱咤に応えメイショウタイカンを捉えたその勝ち時計はレースレコードに。

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☆2000年 馬場・良
1着マチカネホシマツリ
(2着メイショウタイカン)
 デビューの遅れた超良血馬が、初めて臨んだ重賞競走で見せた驚異の走り。
良馬場で先行し勝ちパターンに持ち込んだメイショウタイカンを、中団追走からあっさり交わしてしまうのだから恐れ入る。戸梶由則騎手(引退)にとっても思い入れの深い馬だった。

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☆2001年 馬場・重
1着エイシングランツ
(2着マッケンリーダー)
 前年に続いて外国産馬のエイシングランツが制した建依別賞。中央ではOP特別で2着があり、高知でも重賞勝ちがあった同馬の貫禄勝ちだった。北野真弘騎手(現・兵庫)が好位追走から直線抜け出す教科書通りの騎乗を披露。

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☆2002年 馬場・不良
1着エイシンドーサン
(2着エイシングランツ)
 またまた外国産のエイシンドーサンが勝って3年連続マル外の勝利。2着もエイシングランツでエイシン冠号馬のワン・ツーとなった。エイシンドーサンは短距離に不安もあったが、直線では徳留康豊騎手(現・金沢)に導かれ矢のような伸びを披露。

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☆2003年 馬場・不良
1着ナムラコクオー
(2着ジョイフライト)
 何度も不死鳥のような復活劇を遂げたナムラコクオーの最後の重賞勝ち鞍。
中越豊光騎手との二人三脚はお馴染みのエピソード。また田中守調教師にとっても、騎手時代に騎乗したことのあるナムラコクオーでの重賞初勝利は感慨深いものになった。

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☆2004年 馬場・重
1着ストロングボス
(2着マイサクセス)
 ナムラコクオーとは脚部不安を克服して走っている点で共通するストロングボス。じっくりと立て直して下級条件から昇級。初重賞挑戦でマイサクセスとの競り合いを制してみせた。前年に3歳重賞を2勝した宮川実騎手、この馬で古馬重賞を初優勝。

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☆2005年 馬場・良 1着ストロングボス (2着ケージーアフリート)
 ストロングボスが2年連続制覇で外国産馬は2年連続6度目の優勝。逃げたケージーアフリートがぎりぎり粘り込むかというレースだったが、ゴール寸前で執念の逆転劇となった。宮川実騎手も表彰式ではホッとした表情。今年は以前にニッポースワローが記録した3連覇への挑戦となる。

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 さて第29回を迎える今年はこのような登録メンバーとなった。

シルキーゲイル 57kg
ケージーアフリート 57kg
ストロングボス 57kg
ニッタレヴュー 57kg
ゲイリーファング 57kg
コスモインバイト 57kg
マルタカセダン 57kg
マリスブラッシュ 57kg
トサノライデン 57kg
マイネルリチャード 57kg
マルチロードスター 57kg
ダイヤモンドボス 57kg

 全馬が4歳以上の牡、セン馬で斤量は57キロ。絶対的存在は見当たらず、混戦と考えてよさそうだ。近走のA級選抜戦を振り返る。

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☆7月2日 ルビー特別 1600m
9頭立て 曇・稍重

1着 ケージーアフリート
55.0 倉兼育 1:46:9      2番人気
2着 ニッタレヴュー
58.0 赤岡修 1:46:9 クビ   1番人気
3着 ダイヤモンドボス
55.0 西川敏 1:47:6 3    6番人気
4着 シルキーゲイル
55.0 緒方洋 1:48:1 21/2 4番人気
5着 マイネルリチャード
56.0 中西達 1:48:1 ハナ   3番人気

 先行したケージーアフリートが一杯に逃げ切る。一番人気のニッタレヴューからすれば早め2番手でこれをマークするという競馬での2着だから止むを得ない部分もある。期待の若駒マイネルリチャードは先行馬ペースだとやや苦労する。逆に言えば楽に先行したケージーアフリートは強いということだ。

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☆7月16日 ジュライ特別 1600m
9頭立て 晴・重

1着 シルキーゲイル
55.0 倉兼育 1:46:2     2番人気
2着 ニッタレヴュー
58.0 赤岡修 1:47:9 8    1番人気    
3着 ゲイリーファング
55.0 花本正 1:48:2 11/2 7番人気
4着 シンボリオレゴン
55.0 緒方洋 1:48:4 3/4  4番人気
5着 ダイヤモンドボス
55.0 西川敏 1:48:5 1/2  4番人気

 先行馬不在で積極策をとったシルキーゲイルが8馬身差の圧勝。ニッタレヴューとは3キロの斤量差があったとはいえ、この走りには驚いた。倉兼育康騎手は涼しい顔で「あれぐらい走る馬だと思ってました」とコメント。ゲイリーファングの差脚も復活気配。シンボリオレゴンともども本番が前崩れなら、と思わせるムード。

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☆7月30日 ペリドット特別 1600m
9頭立て 晴・良

1着 マリスブラッシュ
55.0 鷹野宏 1:47:6      5番人気
2着 ニッタレヴュー
57.0 赤岡修 1:47:7 クビ   2番人気
3着 ダイヤモンドボス
55.0 西川敏 1:48:0 11/2 7番人気 
4着 ケージーアフリート
56.0 倉兼育 1:48:5 21/2 1番人気
5着 ゲイリーファング
55.0 花本正 1:48:5 アタマ  6番人気

 うるさい仕草を見せ、いい状態が戻ってきたというマリスブラッシュが5番人気ながら好位から抜けて快勝。スタートから行きっぷりが違っていた。一方いつものように逃げたケージーアフリートは失速。ニッタレヴューはさすがの安定感だが3連続の2着。ダイヤモンドボスは見せ場のある3着。ゲイリーファングは思い切り溜めるレースぶりで、1400m歓迎だけに本番の伏兵候補。

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 混戦模様、という状況が近3走の成績からもお分かり頂けただろうか。ビッグフリートが出走してくれば人気を集めただろうが、こちらは佐賀のサマーチャンピオンG3へ直行。春の二十四万石賞を制した実績と安定感、更に斤量面を考えればニッタレヴューが一歩リードの感もあるが、近走勝ちきれていない点と距離1400mをどう考えるか。近3走のそれぞれの勝ち馬、ケージーアフリート、シルキーゲイル、マリスブラッシュにも一長一短があってなかなか軸を決めるのに苦労しそうだ。だからこそ馬券的な妙味は増す。先行あるいは好位集団から勝ち馬が出る確率が高いレースなので、基本はそこから。また大きなポイントとなるのは57キロという定量重量戦であること。斤量慣れしているか、もしくは過去に57キロを背負って好成績を残しているかどうか。当然1400m戦の好成績は必須。残りは枠順と馬場だから、変動しやすい馬体重と併せて当日の最終チェックで軸となる馬を見極めたい。

 今年もセミの大合唱の中、五感に響く熱戦となるか建依別賞。よさこい祭りが12日に後夜祭を迎える予定で、いよいよ高知の暑い夏は13日の建依別賞と、その晩の高知市納涼花火大会でピークを迎える。「夏」の全てを詰め込んだような週末、「建依別」達のスピードとパワー、そして意地とプライドをかけた伝統の一戦をぜひライヴで!

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