岐路に立つ地方競馬 後篇

 競馬サークルを巡る動きはとても慌しいようです。いい方向へも、そうでない方向へも…。先日からこのコーナーでも話題にしていた地方競馬の騎手による中央競馬騎手免許受験については、JRAの理事長による定例記者会見において「ダブル免許」に否定的なコメントが発表されました。「帰属」について曖昧となるから、というのが主たる理由のようでした。
 
 「帰属」という言葉はとても深い意味を持ちますね。アメリカでは騎手のライセンスというのは薄っぺらいラミネートカード一枚です。難しい試験などはありません。ただし、外国人が突然やってきて騎乗する事に対しては就労ビザの関係でややこしくなります。これはつまりアメリカ合衆国としての内と外に対する決まりですね。国内においては「騎手」として登録した人間が「乗りたたい」「乗せてくれる」競馬場や厩舎で「好きに」乗ったらいいという事になります。ビジネスですから当然「乗れない」騎手は解雇されます。ただし日本のように囲い込まれていないですから別の場所でまたチャンスを探せばいいだけです。日本国内には他国との国境以外に国内にも大いなる「柵」があります。
あまりに違いが大きいですね。上手い騎手はいつでもどこでも騎乗を依頼される、そうでなければスポーツと言えるのかどうか…。

 さて今日の本題、第2回JBCが近づいてきました。昨年は地方競馬のほとんどの施設が場外発売に参加し、地方競馬の祭典としてのJBCを大いにアピールしました。盛岡競馬場を舞台に行われる今年の第2回。中央競馬が発売協力を行うとのニュースには驚きました。有馬記念の施行日に関するバーターという印象は残りますが、それでもある意味前進だと捉えています。それはせめてG1だけでも全国どこでも買える、という競馬全体の抱える課題の解消につながる可能性があるからです。

 日本でいうとこれまで「映像、オッズ、投票機能」という必要なものを出来るだけ広範囲に全国展開してきたのは競輪でしょう。それは何より競技場の数が大変多いこと。そして各場が大レースを足並み揃えて販売することで、共通の利益を得ることがシステムとして機能してきたわけです。
 競馬でいうと米・豪の2カ国がこういった全国発売システムを作り上げています。特にオーストラリアの場合はTABという統括機関によって全豪で400ヶ所以上とも言われている大小の競馬場間を結び、サイマルキャストで色々なレースを発売することを可能にしています。アメリカの場合は時差を利用して東海岸のメインレースを西海岸の競馬場の前半に発売するといった事も行われています。いずれも各地の、とりわけ規模の小さい競馬場にとっては場外発売のコミッションも大事な収入だし、一方で大規模の競馬場にとってもネットワークされた発売システムはとてもありがたい存在です。

 日本でこういう形を取ろうとするならば、例えば芝・ダートそれぞれのG1競走位はどこの競馬場でも買えるようになればいいなと思うわけです。買う側の立場からすれば施行者の違いは関係なし。競馬ファンを丸々抱え込むだけの度量が競馬主催者には必要なわけで、そしてそれがスポーツとしての競馬の価値を高めるはずです。改めてダートグレード競走、芝のグレード競走について体系の整合性をまとめ、各地の主催者は地域性を考慮しながら開催日程を作成していく…。いずれはそんな状況が生まれてくるのでしょうか。

 3回に分けて書いてきた「岐路に立つ地方競馬」。実際のところ、地方競馬を取り巻く環境は厳しさを増しています。競馬規模を縮小する事で危機を乗り切ろうという試みはすでに失敗に終わりました。装置産業でもある競馬場運営には体力が必要なのです。上記した内容とは裏腹に、今のシステムでは場外発売によって体力を落とす主催者も複数あります。最終的にはJRAと地方競馬の規模の大きな場でないと生き残れないという話なら、サラブレッドにして年間8千頭を生産する日本の競馬産業は大きな打撃を受けるでしょう。もはや日本競馬「囲い込み」の時代を脱却しなければ「競馬」そのものの危機に直面する日も遠くありません。

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