岐路に立つ地方競馬 中篇

 2002年に起きた競馬界のターニングポイントとなる事件。4つほど挙げての展開を考えていましたが、「ホッカイドウ競馬・高岡秀行調教師が来年にもシンガポールで開業する可能性についての報道」も加えなければならないでしょうか。いかに現在の状況が「動いているか」の象徴でもありますね。
 すでにタキノスペシャル・ナミなどの活躍でホッカイドウ競馬でもトップトレーナーの地位にある高岡調教師が、慣れない環境や語学の壁を乗り越えてでも彼の地に開業しようというのなら、そこにはそれ相応の動機が必要です。もちろんシンガポール競馬は、シンガポール航空国際カップが国際G1となりワールドシリーズに名を連ねるなど一流の競馬国へと進歩を遂げる最中にあり、香港・ドバイ・日本らに肩を並べようとするアジアの雄。そこで厩舎を経営することはいきなり世界へと繋がる道であり、チャンスがあればというの常識的でしょうが、それでも以前なら日本の調教師がそれまでに築いた地盤と地位を捨てて…というのは考えにくかったはずです。
 しかし、そういう時代がきたのですね。競馬というひとつのキーワードの元に、キャリアを持つ人々がより自分の能力を生かせステップアップできる環境を求められるのであれば、それはとても健全であり今後の日本競馬のあり方のヒントにもなるでしょう。元々日本の競馬のシステムが「囲い込み」であり、そして表裏一体の「既得権益」という旧態依然の姿をしていたわけですから。
もし高岡調教師のチャレンジが現実となり、それが成功へと進んだら後に続く日本のホースマンたちには大いに勇気を与える事でしょう。

 さて3として挙げたのは安藤勝巳騎手の中央競馬騎手免許への道です。
この件の経緯は皆さんもご存知の通りかと思いますが、笠松競馬場所属の安藤勝巳騎手が昨年の中央競馬騎手試験を受験。残念ながらこれに不合格となってしまったものの、今年になって中央競馬側が試験での規則を改定。「中央競馬で過去5年間に年間20勝以上を2回以上収めているものに対して-中略-基礎的な事項を省いた内容の試験を課す」という内容で、恐らく今年度は安藤勝巳騎手が合格するのではないかと言われています。中央競馬において安藤勝巳騎手が相当上位の実績を残している事は明白。であれば中央競馬の騎手として不適格という結論を出すわけにはいかないということでしょう。一方、地方競馬全国協会のHPや笠松競馬場ではこの件に関するアンケートを行いました。
それは安藤勝巳騎手が中央競馬の騎手免許に合格した場合、地方競馬との重複免許をどう考えるのかという内容です。これをファンに対して問うたところにこのアンケートの肝があります。色々な意味で画期的な事だったのではないでしょうか。そしてファンの回答は、笠松では複雑な心境の見られる結果ながら、大方はW免許支持。果たしてこの免許問題の結末は…、結果が大変楽しみとなりました。

 安藤勝巳騎手、そして高岡秀行調教師。アントニオ猪木さんではないですが、「その一足が道となる」のですね。結構強引ではありましたがメジャーリーグに飛び込んだ野茂英雄投手。彼は結果的に日本野球の流れに一石を投じました。
そして伊良部・佐々木・長谷川らの投手陣が続き、イチローが登場するやメジャーの野球観にも影響を与えています。一般的なメジャーリーガーと比べいかにも線が細いイチローが、圧倒的なスピードで「これもあり」だと思わせた点は、なかなか「他のスタンダード」を認めないとされるアメリカにおいて驚くべき功績です。
 結局キーワードは「Substantial,実質的に」という事なのでしょうね。
大きな壁を乗り越えて挑戦を果たした人がいる。それが決して周囲の望む形でなかったにせよ「結果」を出してしまえば実績になってしまう。野球で言えば「日本のトッププレイヤーはMLBで通用する」という今現在の常識ですが、では野茂以前にメジャーリーグ側が本腰を入れた日本選手のスカウティングをやっていたかといえば答えはNOです。しかし今後は日本のFA制度がMLBの草刈場になっていくことでしょう。この現象は日米の野球機構がそうやって行こうと決めたわけではなく、実質的にこうなってから「世界ドラフト構想」などが立ち上がり現状を追いかけているのです。
 野球の話に脱線しているようですが、もう少し続けます。なぜ有力選手が次々にメジャーへ流出するかという問題を突き詰めると2つの答えにたどり着きました。1つはもちろん年俸や野球そのものの質が高い、というレベルの問題です。ある意味いかんともしがたい部分ですね。しかし2つめはおそらく改善できる部分があります。それはドラフト会議で戦力均衡を謳いながら、実質は有力選手を一部の球団が囲い込めるうえ、なおかつFAで一部の球団に戦力が集中するという大変不均衡なシステムを始めとする野球界の形態です。この形態ではフランチャイズ制も絵に描いたもち。ファンを惹きつけるスリリングな展開や野球本来の面白みを阻害する現状こそが、それに飽き飽きした有力選手のメジャー移籍を促進させているのでしょう。

 地方競馬がこういった状況にある中、安藤勝巳騎手や高岡秀行調教師の残す足跡はどう捉えるべきでしょうか?数年の時間が経って、2002年にこういう事があってと振り返る時、競馬一本化への変化を加速させたと言われるのか。
それとも単発的な出来事として記されるのか…。
 一騎手の免許に関する問題を通して実は日本競馬の今後のあり方について、件のアンケートは競馬ファンに問いました。そしてその結果を踏まえて導き出される方向性は、正に岐路に立つ競馬の将来を左右していきます。

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