アスリート作り。この言葉で真っ先に思い出す国と言えば?もちろん異論もあろうが概ねアメリカ合衆国を連想される方の数が多い事だろう。
基本的なトレーニング方法や食事のコントロール、更にはメンタルトレーニングに至るまで彼の国にはありとあらゆる方法論が展開されそれぞれの工夫に基づいたアスリート作りが行われている。
シアトル郊外のエメラルドダウンズ競馬場の厩舎、あるいはその近辺を見学させてもらったときに目に付いたひとつの事柄に「物量作戦」がある。何の事は無い「とにかく食べさせて」「とにかく運動させる」というやり方なのだが、これが基本的な考え方としてはもっとも合理的に感じた。
例えば飼葉を食べない馬がいる。疲労が溜まっているのか、ストレスがあるのか、あるいは体調がすぐれないのか。そこで調教師が飼葉桶にある物を放り込む。これがなんと糖蜜!つまり子供が朝食を食べないのでシュガーコーンを採用といった方式だ。これなら甘味につられて食べるだろうというわけ。そしてビタミン剤を混ぜる量がすさまじい。10キロはあろうかという栄養剤の袋から金属製のひしゃくですくって飼葉桶にドサッと入れる。ビタミンB群、アミノ酸が中心だというそのビタミン剤はそのサイズで10ドル前後(安い!)、人間もとかくサプリメントと称して薬を飲んでいるお国柄だけに、正に物量作戦で競走馬の体を作っていくわけだ。
そして以前に書いたようにひたすら運動をさせていく。プロテインの様なサプリメントもあったようだが、エメラルドダウンズの下級条件馬はオープン馬のような体格の馬ばかり。骨格もゴツければ筋肉も隆々と盛り上がり、野球で言えばメジャーリーグプレイヤーのような鍛え上げられた肉体である。
アメリカ競馬の下級条件戦はダートの短距離戦が中心。エメラルドダウンズでは1200のレースが多かったようだが、ここでの勝ち時計は1分10秒台が普通に出る。日本のダートよりははるかに速い時計が出る馬場とはいえ、筋肉ムキムキのマッチョな馬がそのアスリートたる肉体を目一杯に躍動させて魅せてくれる競馬はやはり迫力満点だ。
「強い馬作り」の理念はダートグレード、交流重賞で活躍する馬を作るだけに留まらない。下級条件であっても商品としての競馬の価値を高める考え方、それがまた層の厚さを生み全体のグレードを上げていく事に他ならないだろう。
高知競馬場内実況 橋口浩二