アスリート作り その5
人間のプロスポーツ選手でも、体作りやコンディション調整に大きく関係してくるのは「食事」だ。プロ野球のキャンプで昼食にバナナが出るとか、マラソンの給水でのスペシャルドリンクの中身だとかが注目されるわけだが、とかくアスリートには特殊な栄養補給が求められるという事だろう。
競走馬も例外ではない。本来栄養価の低いものを一日中食べ続けるという食生活環境を持っていたウマに、高栄養の食事を一日2~3回与えるという人間的なタイムスケジュールを押し付ける以上はそこに量的・質的な工夫が必要となるのは当然だ。
燕麦(雑穀、主食となる)・干草(マメ科とイネ科がある)・ふすま(雑穀の皮を粉にしたもの)にカルシウム粉と少量の塩を混ぜて、場合によっては水や青草を加えたものが飼葉桶の中身だ。もちろん厩舎・厩務員によってそれぞれオリジナルブレンドやサプリメントがあって、特に有名なのがオグリキャップのにんにくみそやビワハヤヒデのバナナ(これは嗜好品かもしれないが)という事になるだろう。
脱線するが、馬は肉こそ好みはしないが植物なら何でもといってもいいぐらいに食べる。野生状態では草原の草類はもちろんの事、木の葉・花・果実・水生植物、地面を掘って根まで食べるような事もするらしい。これは厩舎内での悪癖にもつながるようだ。
さて前述したようなスタンダードな飼葉を基本として、競走馬の栄養管理には昨今どのような進歩が見られるのだろうか。
最初は水である。考え方は人間と全く同じで、まず水道水をそのまま与えると馬でもアレルギー症状が出るそうだ。これはある育成牧場の場長からデータを見せてもらった事がある。調教やレースをこなして大量の発汗がある馬にとっては、体内を循環する水分の質が大事なのは理解しやすい。塩素消毒されておらず良質のミネラル分を補給できる水を与えれば新陳代謝も活発になり…というシナリオは現代人ならすぐに思いつくところだろう。もち
ろんこれを実行しようと思えばコストが掛かる事も事実だが、水を電気で活性する装置などを導入しているところもあるし、そもそも笠松(競馬場の厩舎)は水が良いので活躍馬が出るといった話もあるぐらいで、”たかが水”は”されど水”なのだ。
欧米の土壌から湧き出る硬水と違って、日本は軟水(ミネラル分含有量が少ない)である。すでにこの時点で生産・育成におけるハンデがあった事は日本のホースマン達に”水”を意識させる大きな理由となったことだろう。
食事=飼葉の問題はまだまだテーマが沢山あるので、数回に分けてという事にしようか。
高知競馬場内実況 橋口浩二