ロードトゥグレードレース Vol.5

 アスリート作り?

 競走馬のメンタル面でのケアも大変重要だ。
結局は「ランニングマシーン」・機械ではないのだから、いかにして持てる競走能力を発揮できるようにしていくかという作業が馬作りの基本だろう。筆者の単純な印象だが、いかにして「能力発揮を阻害する要因を取り除いてやるか」こそが大事なのかもしれない。

 モンティ・ロバーツ(アレッジドを見出した米調教師)著「馬と話をする男」には恐るべき事柄が書かれている。

 競走馬の馴致において、馬の本能的習性に基づいたボディランゲージを用いてやると強制・強要することなしにすんなりと鞍をつけ、人の指示に従わせる事が出来る・・・という内容だ。

 特殊な能力や訓練を要するわけではなく、基本的概念やボディランゲージの単語を憶えていけば誰にでもできると書かれている。

 実はある国内の育成牧場を取材した際にこの方法を実践している場長さんから実際に話を聞いたのだが、これを読むといかに旧態依然とした馬との接し方に問題があるかが分かる。いう事を聞かない馬を怒鳴りつけたりあるいは叩いたりといった行為は論外だが、言葉が通じない相手とのコミュニケーションについては分かったつもりが全然分かっていなかった可能性がある事を憶えておかねばなるまい。

 馬が退屈しないような調教を説くのはヨーロッパのホースマンに多い。大樹ファーム・マチカネ牧場にやってきたハリー・スイニーさんが優駿の連載をまとめた「サラブレッドはゴール板を知っているか」(楠瀬良・編著)の中で強調していたのは「オートマチックにならない事」。つまり日々の中で流れ作業のように同じ調教メニューばかりを繰り返すと馬のモチベーションが下がってしまうという事だ。人間だってつまらない作業には集中力を欠いてしまうし、さらにはミスも起きる。

 美浦の敏腕トレーナー、藤澤和雄調教師は複数の著書の中でやはり精神面の重要性を説く。「馬が走る気になるように持っていくのが私たちの仕事」。競走意欲に欠けている原因を見抜き、何とかやる気を起こさせるとはなんとも管理職的な業務・・・。それが本来の調教師の仕事ならば「馬に走る気がない」というコメントは今後差し控えるべきかもしれない。

 牝馬は叱ってはならない。など、人間にも当てはまりそうな談話がよく飛び出してくる「競走馬との接し方」。これもまた調教技術の一部として日々進化を遂げている。強い馬作りの一環としてまた先人の技術と先進の技術をブレンドした工夫を積み重ねていかねばならないだろう。

高知競馬場内実況 橋口浩二

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