勝負のアヤというものが大きく結果を左右する事がある。
1400m戦という息をつかせぬ展開だけに今回のマンペイ記念には見ごたえタップリの「アヤ」が存在したように思う。
人気のプレシャスボーイの特徴としては総合力では恐らく各馬を上回るものがありながら、一頭だけになるとソラを遣う(走るのをやめる、あるいは気を抜く)、ブリンカー装着を見ても分かるように総じて競走に集中しない時がある、といった癖が挙げられる。まずこれを前提として覚えておいて頂きたい。体格もあり、まだまだ将来性も秘めているのだが、3歳時の特に牡馬にはこういうヤンチャな部分が往々にしてあるものだ。
対抗格に推されたチュウオーパールは一般戦を含め3連勝中。牝馬らしい素軽さに加え、直線で二の脚を使うしぶとさも持ち合わせており、何より昨年のマンペイ記念が行った行ったのスピード決着だった印象からこの馬の押し切りを予想した方も多かったはず。これが第2のポイントである。
チュウオーブラックはじわじわと力をつけてきたものの、本格化途上という印象。対戦相手が強くなっても決して力負けする感はなく、次回の対戦では必ず互角の勝負をするといった成長力がセールスポイントだ。好位追走からの決め手が武器だが、初めての重賞競走でどこまでやれるか。「第3の男」というイメージが3つ目のポイントだ。
果たしてプレシャスボーイは早めに好位に上がった。そうチュウオーパールを自ら捉えに行かないと逃げ切りを許しかねないという状況を見たからだ。フィニッシュパワーらも好位で頑張っていたが向こう正面では「3強」が揃っての抜け出しである。チュウオーパールが内、その外に並びかけていくのはプレシャスボーイ。一歩遅れた感じでチュウオーブラックが続く。3~4コーナーではプレシャスボーイは馬なりの手応えで抜け出すタイミングを計る。その間にチュウオーブラックが差を詰めて、4コーナーでついに3頭は一団だ。コーナーワーク、チュウオーパールが突き放しにかかる。当然プレシャスボーイが馬体を併せに行く。しかしマークを受け続けていたチュウオーパールに余力が無い、逆に伸びてくるのは外!チュウオーブラックだ。ここでプレシャスボーイは外のチュウオーブラックに併せに行くが、そのロスの分が勝負を分ける。クビ差でチュウオーブラックが先着、初重賞制覇である。
以前にこのコーナーで書いたように、一番人気の馬で勝利を掴む難しさ。そしてなお、抜け出すとソラを遣うというクセの意識。チュウオーパールの逃げ切りを警戒という戦前の状況。いくつもの「勝負のアヤ」がマンペイ記念の明暗を分けた。
勝ったチュウオーブラックは如実な成長を見せており、今後この世代の重賞戦線で中心の一頭となりうる資質を十分に見せた。名古屋の怪物ヘイセイパウエルの産駒であり、この時期に頭角を現したのは興味深い。恐らく南国優駿での距離延長は問題なくこなすだろう。
プレシャスボーイは銀の鞍賞とは逆に惜敗を喫したが、チュウオーブラックとの勝負付けはもちろんこれからだろう。奥のあるタイプのミスターヨシゼン産駒で、潜在的な能力を引き出すのが今後もスタッフの課題となろう。瀬戸内賞遠征も含め今後のローテーションも楽しみにしたい。
チュウオーパールは総マークを受ける競馬でも3着というのを評価しなければならない。意外とパワーがあるところもアピール。上山の名馬レオグリングリンの産駒で、今後はスピードの持続力に磨きを掛けて牡馬2頭を逆転したいところだ。
上位3頭とは差があった他のメンバー。ホワイトジャックは大変残念な故障発生。サチエノユウシュンの弟で恐らくは晩成タイプだっただろう。今後は3戦負けなしのチュウオーランサーの台頭や、高知デビューではないもののハナサキボタンが活きの良い活躍を見せており、夏から秋にかけての成長如何では上位に迫れる可能性を秘めている。
直線の攻防だけでも楽しませてくれたマンペイ記念。南国優駿での再対決が早くも楽しみとなる。各馬ともとにかく無事にゲート入りを迎えて欲しい。