7月9日京都競馬場のプロキオンS(G3)に、高知競馬のビッグフリート(8歳牡 田中守厩舎)が参戦する。高知所属馬のJRA出走は過去に2例あって、いずれも3歳馬が阪神競馬場の芝のクラシックTRに挑戦したケースである。
1997年3月9日
報知杯4歳牝馬特別G2(桜花賞TR)
イージースマイル15着(赤岡修次)
2000年3月18日
若葉S(皐月賞TR)
オオギリセイコー16着(北野真弘)
両者とも初めての芝の競走で、結果、全く競馬をさせてもらえなかった印象であった。
イージースマイルの場合には馬体の全体的なバランスは中央競馬のマスコミ関係者からも褒められていたが、いかんせんまだ体が出来上がっていないとの評価。逆に勝ったキョウエイマーチの豪快なレースぶりと、そのブリブリとした筋肉の鎧をまとった体つきに感嘆したものである。
オオギリセイコーは少なくともパワーについては見劣りしなかったものの、バテないままに瞬発力不足で後退してゆくレースとなった。いずれにせよある程度の資質、それだけでどうこうなるものではなかったこれまでの中央挑戦だったのだ。
今回のビッグフリートの遠征はこの2例とはかなり状況が異なっており、中央競馬で6勝、しかもG3の関屋記念で3着した実績がある馬の“再挑戦”といった風情がある。高知競馬に転入してきた際のプロフィールはこうだ。
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ビッグフリート
牡 黒鹿毛
父 アフリート
母 リファールニース
母父 Greinton
母母 バーブスボールド
調教師 田中守(高知)
生年月日 1998年4月30日
生産牧場 千代田牧場
30戦6勝。中央3歳デビューから6勝をマーク、主な活躍レースは
20010407 阪神
3歳未出走 D千二 1着
20010804 小倉
鹿屋特別 芝千二 1着
20020623 阪神
舞子特別 芝千四 1着
20020713 新潟
豊栄特別 芝千六 1着
20020728 新潟
関屋記念G3 芝千六 3着
(勝ち馬マグナーテン)
20020908 新潟
京成杯AHG3 芝千六 4着
(勝ち馬ブレイクタイム)
20020929 新潟
おけさ特別 芝千四 1着
20041218 阪神
アクアルミナスS D千二 1着
(準OP)
2005年10月(シリウスSG3で10着)以来のレース
いとこにシーキングザパール(NHKマイルC、モーリスドギース賞)
その仔にシーキングザダイヤ(フェブラリーS2着2回、JCダート2着)
この一族からは種牡馬リファールが出ている
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JRA時代の脚質、戦法を調べてみると好位抜け出しが最も多く、軽快なスピードで4~5番手までを追走、最後にひと伸びして上位入線、という好走パターンがある。芝でもダートでも基本は同じで、関屋記念・京成杯AH・ダートのアクアルミナスSでの好走はいずれも5番手から直線伸びている。逃げて突き放す、あるいは決め手に賭けて後方待機というタイプではないようだ。厳しい流れよりは軽快さが生かせる展開がいい。
肝心のダート一線級との手合わせはどうか。昨年10月にG3のシリウスSを戦っているが10着。勝ったブルーコンコルド(!)とは1秒5の差が付いている。ただしこのレース、最後の1ハロンが13秒1も掛かっている前崩れの展開で、サイレンスボーイが4着に粘ったものの他の先行馬は軒並み二桁着順というものだった。これを3~4番手で追走したビッグフリートもかなり脚が上がってしまったようである。もう少し軽快なスピードが生かせる展開なら浮上があってもいいのではないか。
高知での2戦は休み明けながら2連勝。初戦はスタートで躓き、大きく遅れながらもさっと好位に取り付いて楽に抜け出した。2戦目はすんなりと2番手を追走。逃げたケージーアフリートが勝ちパターンに持ち込もうとするも、ゴール板でわずかにこれを捉えて先着した。あまり着差が付けられなかったものの、楽逃げの相手を地力でねじ伏せたのだから勝ち時計共々まずまずの内容だろう。
高知2戦の成績
20060604 A2 D1400良
10頭中1着 1.32.7 好位抜出
2着フジエスミリオーネ
20060618 A選 D1600不
8頭中1着 1.44.5 好位競勝
2着ケージーアフリート
田中守調教師はこう語る。
「休み明けだったせいか、高知に来た時は馬場に入っても暴れたりする元気が無かったんですが、ここに来てだいぶうるさくなってきたかな。初戦よりも2戦目、そして2戦目を使ってぐんと良くなりましたね。この中間は特に特別な調教も考えていないけど、輸送もあるので遠征の前に速い所一本行って仕上げようと思います」
「レースではスタートよりも二の脚が速いですね。ずーっと良い脚が使えるのが特徴で、調教なんかでも行かせればきっといくらでも行きますよ」
「まあ、中央の実績がある馬だからそんなに大きく負けないでしょう。どんな競馬でも出来るし、少しでも上の着順を目指して見せ場を作りたいですね」
一方、中西達也騎手は、
「乗っててそんなに乗り味がいいタイプではないのですが、レースはさすがに走りますね。パドックでうるさくて、それから返し馬に行くとなんじゃこれ?という位におとなしくなる。あれ、これはもう終わったかなと思うけど、そうじゃないんですよね」
「高知での2戦目は(逃げた)ケージーアフリートがいい手応えで『交わせないかな』と思ったんですが、なんとか交わしてくれました」
「京都は修学旅行で行って以来2度目です(笑)。中央は初めてなんですけど、頑張ってきますので応援よろしくお願いします!」
と、コメントしている。
ちなみに田中守調教師の地方競馬教養センターの同期に小牧太騎手が、そして中西達也騎手の同期には赤木高太郎騎手がいる。共に兵庫から中央の騎手に転身した旧友を持つ2人である。今回の中央初参戦に思うところは多いだろう。
そしてまた複数の人々のご厚意によって、中西騎手にはプロキオンS以外のレースへの騎乗もある予定だ。この件に関しては尽力くださった関係者の方に心よりお礼を申し上げたい。地方競馬各場のトップクラスの騎手は、どこの競馬場へ行っても通用すると言われている。高知でも名うての名手がなぜか遠征経験が少なく、これまで交流重賞に限るとフジエスミリオーネのダイオライト記念しか機会が無かったのは意外なだけに、今回のチャンスで大いにアピールしてきて欲しいものだ。
さて、普段は阪神競馬場で行われるプロキオンSだが、今年は阪神改修のため京都競馬場だ。ダート1400mは2コーナーポケットから向こう正面、それから3角と4角を回って直線(329m)に向く。スタート地点は芝になっており、約100mほど芝コースを走ってからダートに出る。よく言われているのはこの芝部分でダッシュをつけるために、このコースはハイペースになりやすいということ。週末が雨予報の為、重~不良という可能性もあるが、それでも乱ペースに巻き込まれる事は避けたい。淀の名物3コーナーの坂はダートコースにおいてはそれほど神経過敏になる必要はなさそうだ。
それから問題の相手関係だが、以下の25頭が最終登録を行っている。
(地方馬2頭は決定で、合計16頭まで出走可能)
エンシェントヒル
エーピーフラッシュ
オフィサー
カイトヒルウインド
ケイアイメルヘン
サンライズキング
シャドウスケイプ
シルヴァーゼット
シンボリエスケープ
シーキングザベスト
ステンカラージン
スナークスズラン
ゼンノストライカー
チアズヒカリ
ツルマルファイター
テンケイ
トシザヘネシー
バリオス
ビッグシャーク
ホーマンベルウィン
メイショウバトラー
メイショウムネノリ
リミットレスビッド
(地方馬)
ロッキーアピール
ビッグフリート
いやさすがに強力メンバーである。ダート重賞2勝の他、高松宮記念7着で前走のCBC賞を3着したリミットレスビッド。北海道スプリントC組からは2着のシーキングザベスト、3着のシャドウスケイプ。3月に仁川Sを勝ったエンシェントヒル。ツルマルファイターやシンボリエスケープ、シルヴァーゼットらに加え、地方からは黒船賞2着の忘れちゃいけないロッキーアピールなどなどの名前が並ぶ。昨年のシリウスSのブルーコンコルドほどの存在はいないにしても、この層の厚さこそがJRAの重賞の凄みであろう。
久々の高知所属馬のJRA出走。以前の2度のケースとは色々な背景、そして情勢が違う中での挑戦となった。それでも関係者には存分にこのレースを堪能してきて欲しいと思う。中西騎手がいつもファンに向けて口にする「競馬の面白さ、素晴らしさを楽しんで欲しい」という言葉通りに。
そして心の底から応援しようと思う。こぐま座の一等星プロキオンは、地球から見た明るさではおおくま座のシリウスに負けるものの、本当はシリウスよりも大きい星なのだという。光が当らぬ小さな競馬場にも、実はこんな人々がいるのだということを見せて欲しいから…。