ザッツ・ザ・ウェイ・オブ・ザ・ワールド

~ That’s The Way Of The World ~

 このタイトルはアメリカを代表するポップ・ソウルバンド、アース・ウインド&ファイアーが1975年に発表したアルバムの表題曲から借りたもの。
 
 元々は映画のサントラとして書き下ろされ、「例え世の中が冷たくても、君のやり方で、君の心が燃やす炎で高みへと進もう」という応援歌的なテーマを謳っている。バラード風の出だしから、ゴスペルあるいはマーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイン・オン」のような昂揚感を伴う後半への展開は「セプテンバー」や「ファンタジー」といった彼らの他のヒットナンバーとは違った魅力に溢れている。ちょっと落ち込み気味な人々にはぴったりくるナンバーで、邦題が「暗黒への挑戦」といささか大仰なのは当時の日本がオイルショック直後の意気消沈した雰囲気だったからだろうか。

 この曲を聴いて真っ先に思い出すのは昨年の英1000ギニーの勝ち馬、アトラクション(牝4歳 英国調教馬)だ。この牝馬は先天的に両前脚がひどく外向(前から見ると八の字のように外向きに曲がっている)しており、競走馬になるのは無理だと思われていた。四肢を細く、長くすることでより速く走れるように進化してきたサラブレッドは、普通の状態でも脚元に故障を抱えやすい。
セリの会場で調教師が仔馬を見る様子を観察すると、馬の前後左右から丹念に脚のチェックをしていることが分かる。もちろん歩かせてみたり、2歳のトレーニングセールなら実際にトラックで走らせて能力を測ったりもする。気性のタイプや顔相を気にする人もいる。色々なチェックポイントがあるが、それでもまず競走馬の評価の基本は四肢がまっすぐ伸びていて健康であることなのだ。
仔馬の頃のアトラクションは世間から見放されていた。例え潜在能力が優れていたとしても、この曲がった脚では調教を積んでレースに出走するところまで無事にたどり着けない、そう判断されたのは想像に難くない。

 しかしアトラクションは恐るべき“走る才能”を発揮した。外向した両前脚で他馬と同様のフォームで走れば故障は免れないが、その両前脚を外側に向かって振り回すような独自の走法を編み出したのだ。これは調教で教えられるものではないし、何よりそのフォームで他馬より速く走れるよう人間がアレンジできるものでもない。つまりこの走法はアトラクションの“オリジナル”なのである。

 アトラクションは驚くべき事に、この独自の走法で2歳のデビューから無敗のまま勝ち進み、やはりと言うべきか脚部不安による休養を余儀なくされながらも、その休み明けでイギリスの牝馬クラシック第一弾・1000ギニーを見事に勝利した。衛星放送で見たそのレース~誰が見てもギョッとするような独特のフォームで他馬を圧倒する姿~には、日常のモヤモヤを全て吹き飛ばすような新鮮な感動があった。アトラクションは続けてアイルランド1000ギニーやコロネーションSにも勝った。マイルの名牝、年長のソヴィエトソングには分が悪く無敗は途切れたが、昨年だけでG1を4勝というのは素晴らしい成績で、現代の競馬においてこれほど例外的な馬が大活躍するのは珍しい事だろう。

 この馬の走りを今年は日本で見られるかもしれない。5月15日に東京競馬場で行われる国際競走・京王杯スプリングカップにアトラクションが登録したというニュースが伝わってきた。伝聞で申し訳ないが、どうやら京王杯は登録だけで、その後の国際G1・安田記念(東京)には出走もあるかという話。スピードの持続力に象徴される競走能力もさることながら、何よりもその“走り”を見たいと思わせる稀有な存在である。天皇賞・春に出走予定のマカイビーディーヴァ(牝6歳 豪州調教馬)ともども注目したい。

 さてこのコラム年度当初の恒例となった現況報告を。

 高知競馬の平成17年度はまずまずの船出となった。第1回開催の売得金額は目標設定をやや下回ったものの、昨年9月にオープンしたパルス藍住がここにきてずいぶんと数字を伸ばしている事もあり場外発売が好調。全体としてここまでは黒字で推移している模様だ。ただし新年度の目標額がもともとかなり低く設定してある事や、自場開催の目玉となる重賞競走(今年度は10競走となっている)のうち2レース(二十四万石賞、南国桜花賞)を含んでの成績だからまだ楽観できる状況ではない。賞典奨励費を含めた経費節減はギリギリの線まで進んだが、それでも関係者一同は“競馬を残す”という意志のもとで頑張っている。ならば今年度は限られた予算の中で売上げの向上を目指す、つまり“底からの脱却”が最大の課題となる。

 高知競馬の存廃を巡っては、まず平成11年に高知競馬検討委員会が立ち上がっているから足掛け6年という月日が経過している。この間の経緯は過去の当コラムや報道等を参照ということで省略させていただくが、地方競馬あるいは競馬全体を取り巻く環境もその間に大きく変化してきた。

 筆者が競馬の世界にやってきた平成6年当時には、売上げ不振にあえぐ各地の地方競馬がこぞって高額賞金レースの創設、あるいはイメージアップ戦略の推進、電話投票システムの構築や場外発売所の拡充といった課題に取り組んでいた。経営努力としてこれが間違っていたわけではないが、ありていに言えばこれは“ミニJRA”を各地に作ろうという発想であり、その枠組みには限界が生じた。放送局に例えれば分かりやすいと思うが、巨額の予算と優秀なスタッフ、そして有名タレントを使い全国に発信されるテレビ番組は商品としての価値がずば抜けているわけで、例外はあっても地方発の番組が基本的に太刀打ちできるものではない。もちろん地上波放送における地方局はキー局から送られる番組やCMを配信することで「ネット料」と呼ばれる収入を得ており、これが「地域権」を構成し経営が成り立つというシステムがある。放送免許事業ではこうだが、競馬にはそんなシステムはないから上記のような“ミニJRA”を作ってもキー局と地方局の関係にはなりえない。むしろ地方競馬が拡大路線を取った瞬間から、そこには優秀なコンテンツを持つJRAという巨大な壁が存在する事になるのである。

 そして時間は進み、ほとんどの地方競馬場で存廃論議が巻き起こった。思考停止と無意味な桎梏は退潮を加速させるには十分の力を発揮した。しかし、過去や現状を嘆く余裕は今の我々にはない。

 であるならば、どうするか、である。
 我々には“脚が曲がった馬”アトラクションのような強さが必要だ。過酷な道であってもフレキシブルに進み、かつ人々を魅了する力強さを身に付けねばなるまい。幸いにも高知競馬は最低限収支均衡から始まって、一日当りの売得金額をなんとか前年よりも伸ばすという、一押しの積み重ねで未来を繋げられる。その一押しの積み重ねを考えていこうではないか。

 まず組織について考察しよう。高知県競馬組合が俗に言うお役所仕事から本質的に脱却するために改組し新たに公益法人を設立し民業的経営をという考え方もある。しかしながら高知の場合、人的・時間的資源、その他の経営資源を考慮すると現状にそぐわない可能性が大きい。以前から筆者の考えは公正確保という重要なテーマを持つ管理部門を官で、企画・事業・広報・総務部門等を民でというハイブリッド方式だったが、現状で有効なのは馬券外収入をも扱える「高知競馬営業部」の創設ではないかと思う。公営競馬主催者の収入は全て公金扱いで様々な制約を受ける。更に地方公務員法等の関係でこれまでは職員が場内でのグッズ販売等にも関われなかった。しかし自治法などの問題も現在ではずいぶんと解釈が変化してきていて、やり方ひとつで民業的な手法も可能になったと聞いている。営業と銘打った部署を持つ競馬場の誕生は理想に近い。
公益法人を立ち上げる手間隙に比べれば実にシンプルなやり方でフレキシブルな経営が可能になるはず。高知県競馬組合という枠組みを残す中で、いかにして「営業部」を立ち上げるか、ぜひ早急に研究を願いたい。

 なぜ馬券外収入にこだわるかといえば、馬券の売得金額を増やしたい、しかし賞典奨励費や広告費を削減された状況ではそれが難しい、というジレンマに拠る。広告収入や事業収入(グッズ販売等も含む)は海外の競馬場では当然の経営安定策であるし、しかもその事業そのものが広告効果を生むという二重の意味を持つ。そうして得られた収入が賞典奨励費や広告費を補完すれば、今度は競走自体が自律的に求心力の回復を見せるだろう。筆者としても最終的な目標が高知競馬所属の強い馬作り、そしてレベルの高い競走の提供にあることを捨てるつもりはない。ただし現在はまず競馬場を存続させることが先決。次に安定から成長へと進むためのステップなのだと考えている。

 馬券外収入の中身だが、広告収入については場内の広告看板から、騎手服、競走馬のゼッケンやメンコ、出馬表(広告が付けばカラー化も…)、あるいは場内やハルウララギャラリーを使ったイベント展開など多彩な手法が考えられる。また競走とのタイアップならば、年度のリーディングジョッキーやリーディングトレーナーに企業名で「○○○賞リーディングジョッキー」と付けるとか、あるいは重賞競走でなくても混戦必至で注目を集めるようなハンデ戦を作り、メイン競走「○○ハンデキャップ」としてその日一日を企業のPRデーにするなど、お祭り色の濃い競馬場を演出する事ができる。広告効果は意外に高いものがあり、場内のモニター放送は3ヶ所のパルス場外とインターネットに中継されているから、ここで一日CMを流すこともできる。いっそのことIT技術を駆使した高画質で、解説者・キャスター付きのインターネット放送にしてしまえばかなりの付加価値も付くし、映像配信の低コスト化も図れそうだが、いかがなものだろうか。

 場内の「非日常化」もこの方面から進めたい。南国である事を意識した空間演出も宿願で、職員らがアロハシャツを着て勤務といったアイデアはかなり以前から出ているものの実現はしていない。まずは雰囲気作りからであって、場内の色合いをカラフルにしたり、音楽的演出を加えたりすれば皆が楽しめるムードも高まる。コストのかからないアイデアとしてはフラダンス愛好会の方(高知県内には沢山の会がある)にダンスを披露していただいたり、あるいは企業タイアップで食品や化粧品のサンプル配布、占い師の方が場内で営業(馬券は占えないだろうけれど…)など場内盛り上げのやりようはいくらでもある。
この辺も営業部の出番であり、フットワークの軽い動きが要求されるところだ。

 あと福山競馬や冬季休催競馬場との連携についても少し。

 高知競馬が恒常的に競走面で連携できるのは物理的に福山競馬場だけである。
現時点ではあまり交流がないが、輸送のコストさえカバーできれば本来もっと行き来があってしかるべきではなかろうか。当初に馬の交流が難しくても、騎手の交流等をやっておいて、その後に踏み込んで検討というスケジュールで構わないと思う。名付けて「瀬戸内サーキット」。例えば最初は3ヶ月に1回程度、ホームとアウェーで騎手の遠征騎乗を行い、メインを騎乗馬抽選の競走にして、着順毎に獲得したポイントの年間成績で賞金が出るといったような企画はどうか。相互発売などのノウハウが固まれば将来的に瀬戸内ブロックとして一緒にやれる可能性も見えるのでは。

 それから「ウインターミーティング」。ほとんど雪が降らない高知の温暖な気候を最大限に活かして、冬季に降雪で休催となる競馬場の競走馬を受け入れての競馬開催を行うという企画だ。高知側は出走馬の層が厚くなり、より面白い番組を提供できるし、先方にも少なくとも冬季に休まず調教が出来る点にメリットがあろう。先方の地元場で場外発売があれば、その分の賞金・手当を上乗せすることも計算できる。もちろんこちらも輸送や場外発売分のコストをどうカバーするかという問題は残る。
 

 後半つらつらとアイデアのみを並べた形になったが、高知競馬がどうやって“底から脱出”するかについてはまだまだいくらでもアイデアがあるだろう。
これまでと違うちょっとした工夫と努力で黒字に転じ、競馬を未来へ繋ぐ可能性を秘めた高知方式。これこそが我々の~That’s The Way Of The World ~なのだ。

キャンペーンなど
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