喪失感を覚えると言う事は、”何か”を得たのでしょう。
2002FIFA WORLD CUPでの日本代表チームの戦いが終わりました。
今回のW杯を通じて感じた事、気付いた事はいくつかあるのですが、実は1次リーグが始まる前に大変印象的なコメントが発表されていたのです。
それは誰あろう中田英寿選手の出したコメント。
「(1次リーグを突破できないようなら)、何のためのJリーグだったのかという話になってしまう」という内容でした。
仕事柄、選手やスタッフのコメント・談話が大量にリリースされるイベントでは、その発言の裏にある本質は何だろうと考えるのが常なのですが、今回はこのコメントが最も意味のあるものだったと捉えています。
そして日本代表が決勝トーナメントへ進出し、昨日の試合が終わった時点でこのコメントの真の意味がじわじわと心の中に広がってきました。もう10年以上前に、サッカーの弱小国であった日本がW杯誘致・Jリーグの発足というアクションにより日本サッカーの強化を目指したというのが大きな流れです。
Jリーグ発足後初のW杯は「ドーハの悲劇」で惜しくも出場を逃し、2度目は初出場を果たしたものの1次リーグで敗退。そして自国開催の今回は一歩前進の内容でロシアらを下して16強。日本サッカーは大きな進境を見せました。
マスコミ嫌いで個人主義という印象が強かった中田英寿選手が、ピッチの中だけではなく正に「日本サッカー」を背負う立場として先のコメントを出した事は大きな意味を持つと思いませんか?
競馬の世界にも「日本競馬全体」を背負ったコメントを出し続ける人がいます。故・野平祐二さんもその一人でした。そしてまたしても誰あろう武豊騎手が、常にその場その場で「日本競馬」にとって求められる発言を繰り返しているのは皆さんもお気付きのはず。NARグランプリで地方競馬各場での活躍について訊ねられると「競馬はどこで乗っても同じだと思ってますから」と答え、黒船賞をノボジャックで優勝した時には「明日からドバイ・フランスと行ってきますが、戻ったらまたここ(高知)に来たいと思いますのでその時はまた応援して下さい」と聞いているファン全員が納得のコメント。
各競技のトップスターが全てこうかというと、果たしてどうでしょうか。
責任感、緊張感、ある種の危機感を常に持っていなければそうはならないはず。
日本で高値安定のプロスポーツだった相撲、野球でさえ危機感を滲ませる現状では「業界全体」を見渡すという関係者の意識改革が必須。上部組織から現場のひとりひとりに至るまで、それは同じ事でしょう。自らの利や、あるいはエゴといったものばかりを追求しているうちに母体そのものがやせ細ってしまう。
あれ、ここまで書くとスポーツの話を飛び越えて政治の話にまで行ってしまいそうですね。
翻って日本の競馬は、今どういう状況でしょうか。競馬全体の発展のためにやらなければならない事を置き去りにして、無駄な事にエネルギーを費やしていないでしょうか。小さな競馬場は大きな競馬場を支えています。これを無視していると将来に禍根を残すでしょう。
しかしスポーツのエネルギーはすごいですね。「キャプテン翼」に心を躍らせ、Jリーグのオープニングに憧れを抱いた少年達が大きな仕事をやってのけました。そしてまた今回のW杯で歓喜し、涙を流した少年達が2006、2010、2014年と大活躍を見せるのでしょう。あれほど多くの人々が熱狂して、そこには沢山の「縁起」が生まれました。このダイナミズムこそがスポーツの一番の力なのかもしれません。
そのダイナミズムの象徴として「何のためのJリーグ=日本サッカー」を意識して戦い、しっかりと結果を残した中田英寿選手のコメント。深い感慨を憶えると共に、日本サッカーの「目的の達成」に賛辞を送りたいと思います。