8月13日の高知競馬“真夏の短距離決戦”建依別賞はケージーアフリートが圧巻の逃げ切り勝ち。そして15日に行われた佐賀のサマーチャンピオンG3で、先行して1着馬から0.5秒差という4着に粘った“大艦隊”ことビッグフリート。高知所属のアフリート産駒2頭が大活躍を見せた。いずれもダートの1400m戦。アフリート産駒らしいスピードを活かした競馬だったと言えるが、このアフリートという種牡馬、日本の競馬における存在感はなかなかのものがある。最初にちょっとこのアフリートについて紹介しておこう。
アフリート(CAN)は1984年生まれの人気種牡馬。現役時代は北米で15戦7勝。
ジェロームH(G1、8F)を制している。
父 Mr.Prospector
母 Polite Lady
母の父 Venetien Jester(その父 Tom Fool)
という血統で、今年のサイアーランキングは(7月31日現在)総合10位。これまでの国内代表産駒に、
プリモディーネ (桜花賞)
スターリングローズ(JBCスプリント)
ビッグウルフ (ジャパンダートダービー)
プリエミネンス (JBCクラシック2着)
サカラート (ブリーダーズゴールドカップ)
ゴールデンジャック(オークス2着)
等がいて、また海外での産駒Northern Afleetの仔に昨年のアメリカ二冠馬Afleet Alex(プリークネスS、ベルモントS)の名も。
日本に数多くのミスタープロスペクター系種牡馬が輸入されたが、このアフリートは大成功と言っていいだろう。特に強調するべき競走成績や血統背景があるわけではないのにこれだけの活躍馬を送れたのは、配合牝馬に恵まれたという背景もあろうが、自身の種牡馬としてのバランスが優れているに違いない。軽快なスピードという資質は割りと伝わりやすい因子であっても、配合によってはそれが阻害される場合も出てくる。
アフリートの場合、母系にトムフールとプリンスキロを内包しているが、他にあまり派手な血脈(例えばノーザンダンサーやヘイルトゥリーズンといったネアルコ系)を持たないために、生まれてくる産駒の血統構成がシンプルになるのが利点となる。
特にトムフール・メノウのラインを持つ牝馬との配合は成功が際立つ。前記した活躍馬は大抵が母系にバックパサー、あるいはトムフールやメノウというラインを持っており、それがスピードに加えて底力を産駒に与えているようだ。ちなみに我らがビッグフリートやケージーアフリートはそれぞれスピードが強調される配合になっていて、先行タイプとして活躍していることに納得する。
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さてそれでは2つのレースを振り返る。
まずは「農林水産大臣賞典 第29回 建依別賞」(サラ系OP1400m 定量)だ。
1着4番 ケージーアフリート
57.0 倉兼育 1:31:4 1番人気
2着6番 ダイヤモンドボス
57.0 西川敏 1:31:9 21/2 5番人気
3着10番 シルキーゲイル
57.0 堅田雅 1:31:9 アタマ 2番人気
4着5番 マイネルリチャード
57.0 中西達 1:31:9 ハナ 6番人気
5着2番 マリスブラッシュ
57.0 上田将 1:31:9 クビ 4番人気
6着8番 ニッタレヴュー
57.0 赤岡修 1:32:2 11/2 3番人気
7着1番 マルタカセダン
57.0 明神繁 1:32:9 3 9番人気
8着3番 マルチロードスター
57.0 鷹野宏 1:32:9 ハナ 8番人気
9着9番 ゲイリーファング
57.0 花本正 1:33:1 1 10番人気
10着11番 ストロングボス
57.0 宮川実 1:33:3 1 6番人気
11着7番 コスモインバイト
57.0 緒方洋 1:33:6 11/2 11番人気
1番人気のケージーアフリート。スタートでやや後手を踏んだというものの、二の脚で先手を奪うと他馬もそれほど抵抗を見せず1コーナーではもう抜け出していた。前半の2Fが24秒2だから良馬場にしては速いが、それでも1~2コーナーで楽が出来たと倉兼育康騎手がコメントしているので、この辺りはさすがのスピード性能というところだ。
勝負はある意味この時点で決していたか。2番手はダイヤモンドボス。その直後の好位集団には内からマルチロードスターが上がり、外にゲイリーファング、更にマリスブラッシュらが続き、2番人気のシルキーゲイルや3番人気のニッタレヴュー、マイネルリチャードが中団といった位置取り。この好位から中団が混戦模様なのが、前残りの展開を示唆する。
手応えを残して勝負所を迎えるケージーアフリート。2番手のダイヤモンドボスをやや突き放す。後続は3~4コーナーにかけて大混戦。内から差を詰めるマリスブラッシュ。
間からマイネルリチャード。そして外からシルキーゲイルとニッタレヴューが来て、5頭の2番手争いでいよいよ直線の攻防へ。ケージーアフリートはここでも脚色鈍らず完全に逃げ切り態勢。2番手集団の先頭を懸命に守るのがダイヤモンドボス。シルキーゲイルが外から、間からマイネルリチャードが追い詰めるも、道中の先頭・2番手が結局そのまま1~2着となる決着でゴールイン。
ケージーアフリートは昨年のこのレースでゴール寸前まで粘って惜しい2着。1年越しの悲願を果たして重賞初制覇となった。冬シーズンを休養に充てたことが脚元の不安を解消させ、ひいては心身の成長に繋がったと松下博昭調教師。一息入った後の前走が4着だが、ひと叩きで変わった。6月18日、ビッグフリートとの対戦も僅差の2着に踏ん張っており、サマーチャンピオンの結果と照らし合わせれば、小回りコースの短距離なら相当やれる可能性も。
ダイヤモンドボスの粘りが場内を沸かせた。以前はOPクラスではどうか、という評価だったが近走の内容から穴人気し、しっかり2着に食い込んで見せたのは立派。負けたとはいえ、鞍上・西川敏弘騎手の騎乗もさすが。
シルキーゲイルは前走で先行して8馬身差大勝も、控えた競馬で先行馬ペースになってはさすがに届かないか。中央でのダート5勝がすべて1600~1800m戦だったことを考えれば、1400mは短かったかもしれない。それでも最後はきっちり差を詰めてきた。
3番人気だったニッタレヴュー。こちらもやや距離不足の感。前半の追走に苦労した分、いい位置が取れなかった。4角はやむを得ず混戦馬群の大外を回らされており、2着争いに加われなかった。
マイネルリチャードは未完の大器。まだそれほどレースが上手ではない印象があって、先行馬ペースの上がり勝負だと辛い。ただし悲観するほど負けていないのだから、秋シーズンにかけての成長に期待する。
マリスブラッシュは前走に続いて好調持続。枠が外目だったら2着があったか。
今年の建依別賞は混戦模様の中、しっかり自分の競馬に徹したケージーアフリートが完勝。1400mをしっかりと逃げ切ったスピードの持続力は夏の短距離王にふさわしいものであった。
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さあ、続いては佐賀競馬場の「農林水産大臣賞典 第6回 サマーチャンピオン」(サラ系3歳以上OP 1400m 別定 G3)である。
1着4枠4番 メイショウバトラー JRA
55.0 佐藤哲 1:26:1 1番人気
2着8枠11番 メイショウボーラー JRA
59.0 福永祐 1:26:1 アタマ 2番人気
3着5枠5番 ワンダーハヤブサ JRA
56.0 川田将 1:26:5 2 4番人気
4着8枠10番 ビッグフリート 高知
56.0 中西達 1:26:6 1/2 6番人気
5着3枠3番 ザオリンポスマン 佐賀
56.0 長田進 1:27:0 2 9番人気
6着2枠2番 ニホンピロサート JRA
57.0 小牧太 1:27:0 クビ 3番人気
7着6枠7番 テイエムデウス 荒尾
56.0 山口勲 1:27:7 4 8番人気
8着1枠1番 タイキシリウス 佐賀
56.0 鮫島克 1:27:8 1/2 7番人気
9着7枠8番 ゼンノサンタアニタ 笠松
56.0 吉田稔 1:27:9 1/2 11番人気
10着6枠6番 イカルガ 佐賀
56.0 吉田順 1:27:9 アタマ 5番人気
11着7枠9番 ケイアイダンシング 愛知
56.0 大畑雅 1:28:3 2 10番人気
ビッグフリートは前走のプロキオンS(G3)時と比べ馬体重が+13キロ。これは太め残りというよりは輸送による馬体減りがなかったと考えていい。パドックでの姿は毛艶も良く、体は引き締まっており、前走よりトモの踏み込みも大きかったように見えた。輸送が成功したようだ。中央在籍時にビッグフリートを管理していたメイショウボーラーの白井寿昭調教師は「なかなか馬が良くなっているね、歩様も良くなった。この馬はちょっと賞金が足りずに目標のレースをうまく使えなかったんだよ」と田中守調教師に話し掛けてくれたそうだ。
前走のプロキオンSは11着。なんと中央のダート重賞で先行したのには驚いた。4角まではいい感じでレースを進めて、直線に向いてから追い比べでやや遅れをとった。ここで抜け出したメイショウバトラーの蹴り上げた砂を被り後退してしまったそうで、あるいはその砂を被らなければもう少し粘れていたかもしれない。小回りコースで11頭立てという今回の条件ならば前進あるのみ。中西達也騎手も「いいところあるんじゃないかと思ってます」と言い残して佐賀へ向かっていった。
スタートはちょっと躓き加減だったそうだが、それでもさっと立て直して馬群の先頭に。
ここで周りを確認すると内の各馬もそれほど行く気はなく、外のメイショウボーラーはやや遅れていて中西達也騎手の心は決まった。「よし行こう」。ビッグフリートは迷い無く先行策を選び、やや抑え加減という手応えでペースを作る。1コーナーで外の2番手に上がってきたのがメイショウボーラー。1番人気のメイショウバトラーは4番ゲートから出て外に持ち出すと好位まで上昇してきた。かなり外目を回ったが、逆に言えば佐藤哲三騎手の絶対的な馬への信頼感とも取れる位置取りである。
ビッグフリートは向こう正面でもやや抑えた感じで快調な逃げ。3コーナーでメイショウボーラーとメイショウバトラーが共に差を詰めに掛かる。ここからはメイショウ2騎の一騎打ち。ビッグフリートは4角で交わされながらも一杯になることはなく3番手で直線へ。
直線でもビッグフリートは止まることなく頑張っているが、好位集団から外目を伸びてきた4番人気のワンダーハヤブサが迫ってきて、わずか体半分交わされたところがゴール。
スポーツ紙記者の方のご厚意で、レース後の田中守調教師、中西達也騎手と電話で話すことが出来た。田中守調教師は「3着惜しかったけど、やっぱり走るねえ。この馬の能力をまた確認できたわ。そんなに負けてないはず(1着と0.5秒差)だし、またいいレースがあったら狙っていきたいね」と、ビッグフリートの走りに感心しきり。また中西達也騎手は改めてダートグレードでの“熱い勝負”に興奮さめやらぬ様子で「いや、やっぱりこうやって好勝負すると楽しいわ。先行するつもりはなかったんだけど、周りが行かんかったしね。あれで正解だと思う。3着なんとかしたかったけど…、すみません(苦笑)」と語った。
ビッグフリートという馬名は「大艦隊」の意。チーム・ビッグフリートは今後も快速を武器に、大いなる海原へと乗り出すのであろう。その航海には荒波であるが故の喜びが待っている。送る言葉はただひとつ、~ Bon Voyage! ~ だ。